薬に頼らないこころの健康法Q&A

不登校の“娘”にどう接するか?

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授
井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(C)日刊ゲンダイ
不登校中も再登校の準備ならできる

【Q】
 中学1年生の娘を持つ母親です。入学早々にテニス部の練習で先輩とひと悶着あったらしく、それ以降は休みが多くなりました。何とか中間・学期末試験は受けましたが、夏休み中は部活の練習にも出ず、自宅で過ごしました。「2学期からは行く」と約束していたのですが、あけてみたら不登校に。学校に行かない理由を聞いてもしゃべってくれません。ただ、学校以外の話題なら話しますし、食事や入浴も普通です。家事も手伝ってくれ、家族とも外出し、塾にも通っています。週に1度、スクールカウンセラーの先生が訪問してくれますが、話は弾まないようです。専門のお医者さんに診てもらい、本人が何を思っているのか聞いてもらった方がいいのでしょうか。

【A】
 プロの精神科医といえども、しゃべりたくない人をしゃべらせることはできません。精神科医は少し誤解されていますが、刑事のように「口を割らせる」ことが仕事ではないのです。

 お母さまとしては、なぜ、学校に行かないのかの理由を知りたいとお思いなのでしょう。しかし、多分、娘さんは医者にもしゃべらないでしょう。お母さまやお父さま、学校の先生に対してもしゃべらないのですから、まして、初対面の医者に対して心を打ち明けることはないでしょう。

 娘さんの不登校の場合、最初は理由があったのでしょうが、もう今となっては時間も経っています。最初の理由から解きほぐしていっても実りはないでしょう。理由を語らせれば、それで学校に行けるわけでもないと思います。

 逆にいえば、理由がわからなくても、できることはあります。まず、塾の頻度を増やしましょう。そして、学校の先生と連絡をとって各科目の授業の進捗状況を教えてもらい、それを塾の講師に伝えて、追いつくための勉強計画を一緒に作ってもらいます。

 また、起床・就床時刻を登校前提の時間に設定します。23時就床、7時起床などです。そして、日中、学校に行けなくても、授業の行われている時間には机につくことを習慣付けましょう。1時限目、2時限目、3時限目から、昼食の時間、昼休み、午後の授業など、一通り学校と同じ時間で過ごすのです。

 それから、夕方は少し運動するといいでしょう。夕方の時間帯なら中学生が散歩したり、ランニングしたりしても不自然ではありません。体力低下を最小限にとどめるためにも、毎日、体を動かすことにしましょう。

 これらは、いざ再登校しようというときの準備になります。準備不足だと、せっかく再登校しても勉強の遅れにショックを受け、あるいは身体的に疲れてしまって、また不登校になってしまうことでしょう。

 学校の先生とは、勉強の進捗を聞くという理由をつけて、定期的に連絡を取り合うことです。そして、学期の初めとか、行事の際とか、学年末のクラス替えなどのタイミングで再登校を試みるのです。

 娘さんの場合、不登校の理由を探るよりも、娘さんが再登校を決心したときに、すぐに学校になじむための準備こそが大切なのです。

井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。