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【気胸】日産厚生会玉川病院・気胸研究センター(東京・世田谷)

栗原正利センター長
栗原正利センター長(C)日刊ゲンダイ
手術数年間300件の再発率は通常の6分の1以下

「気胸」とは、何らかの原因で肺に穴があいて「胸腔」と呼ばれる空間に空気がたまった状態のことをいう。たまった空気に肺が押されてしまうので、「息が吸えない、吐けない」息苦しい症状が表れる。

 肺に穴があく原因には、肺表面にできた風船状の病変(肺嚢胞)が破れて起こる「原発性」(若年者に多い)と、肺気腫、気管支喘息、肺がん、肺炎、肺結核、胸部外傷など肺に基礎疾患があって起こる「続発性」がある。

 同院の呼吸器外科は、その気胸の治療を得意とすることから、1986年に「気胸研究センター」と改称。

 現在では受診患者の9割が気胸・肺嚢胞の患者で占められ、全国から難治性の気胸や合併症のある重症患者が紹介されてくる。

 栗原正利センター長は「気胸で来院する患者さんの3分の2は、他院で治療した後に再発した人です」と言う。

「気胸の治療が難しいのは、医師によって治療法の考え方が違うからです。肺を壊す病気は最終的には気胸を起こします。数多くある気胸を起こす肺の基礎疾患に応じた治療をしていかないと再発してしまうのです」

 気胸の治療法は主に3種類ある。①胸腔にたまった空気を抜く処置をして、穴が自然とふさがるのを待つ②胸腔鏡手術で穴をふさぐ③胸腔に癒着剤を入れて、肺と胸壁をくっつけて肺を膨らませる。どの程度の気胸に、どの治療法を選ぶかは、呼吸器内科や呼吸器外科の医師によって考え方が違うという。

「肺疾患を大別すると、COPDや喘息などの肺が膨らもうとする『閉塞性肺疾患』と、肺線維症や間質性肺炎などの肺が硬くなって縮まろうとする『拘束性肺疾患』があります。ひとつの治療法にこだわり、縮もうとする肺に対して癒着治療をしてしまうと無理があり、再発しやすくなります」

■18種類の治療手段

 同センターでは、肺の基礎疾患の種類や状態に応じて治療法を使い分けている。一般的な3種類の治療法を含め、18種類の治療手段がある。中でも特徴的なのは10年ほど前に開発し、普及させてきた「カバリング術」だ。

「たとえば肺のスポンジ状の組織がスカスカになる肺気腫のような病気では、穴のあいた1カ所だけをふさいでも他にも弱い部分があるので再発してしまいます。それを肺の表面に吸収メッシュを広範囲に張って広く補強することで、気胸を起こしにくくさせるのです」

 また、女性の気胸は男性に比べて発症頻度は少ないが、裏に特殊な病気が隠れていることがあるので注意が必要になる。再発率70%といわれ、女性の月経時に関係して起こる月経随伴性気胸などの難治性の気胸に対応できるのも、同センターの大きな特色だ。

「国内の気胸の手術は年間1万2000件以上行われていて、再発率は平均20%くらいあると思われます。当センターの手術治療の再発率は3%に抑えられています」

 センター設立からの手術実績は世界最多といわれ、約8000例に上るという。

■データ
日産コンツェルン創始者、鮎川義介氏の資金援助によって1953年に設立された公益財団法人の病院。
◆スタッフ数=呼吸器外科医常勤3人
◆年間初診患者数=約550人
◆気胸の年間手術実施数=約300例