エイズを知る

<3>感染者の1%は「エリート・コントローラー」 無治療で大丈夫

 これまで最新治療のすごさと医療費の安さについて紹介したが、もっと驚くべき事実がある。世界には、HIVに感染しながら何十年も治療を受けずにエイズ発病を免れている人がいるのだ。そんな人は、「エリート・コントローラー」と呼ばれている。

 国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センター長の岡慎一氏が言う。

「エリート・コントローラーは、エイズ感染者全体の1%程度とみられています。私が診察した患者さんの中にも、300人に2、3人の割合でいて、日本人の患者さんにもエリート・コントローラーがいるのです。その中には、1980年にHIV感染が確認されてから、35年間、発症していない人もいます」

 まだエイズが知られるようになったばかりで、“不治の病”と恐れられていたころ。HIV感染者は、あたかも“バイキン”扱いされ、偏見が根強かった。そのころから、エイズ発病を免れ、フツーに生き続けている日本人がいるというのは、ビックリだ。

 HIV感染者は、少しずつウイルスが増加するにつれ、免疫細胞が破壊され、免疫力が低下。免疫が壊滅状態になって、エイズを発病すると、カポジ肉腫や真菌症の一つクリプトコッカス症など、健康な人なら発病しないような病気に侵されて死に至る。それなのになぜ、エリート・コントローラーは無治療で発病を食い止めることができるのか。

「数々の研究から、欧米のエリート・コントローラーには、HIVの感染力を弱める『HLA-B57』という遺伝子が関わっていることが分かっています。世界レベルでは、欧米のエリート・コントローラーを研究し、ワクチンや治療法を開発しようとしている状況です」

 しかし、日本人エリート・コントローラーには、この遺伝子がない。別の特殊な遺伝子が、免疫力のキープに役立っているはずだが、それが何かは分かっていないのが現状だという。

「エリート・コントローラーは数が少ないながらも、一定数いることから考えて、HIVウイルスの異常などではなく、あくまでもヒト側の免疫力の“特殊性”だと考えています。しかし、日本人エリート・コントローラーの数が絶対的に少な過ぎる上、そういう人を検査しても、ウイルスをほとんど検出できず、常にウイルスを採取できるわけでもない。そのため、発症する人との違いを比較しきれないのです」

 日本のHIV感染者数は昨年末で1万6903人。1%なら単純計算で170人近くが、エリート・コントローラーということになる。研究が進むことを願うばかりだ。