薬に頼らないこころの健康法Q&A

荒れる息子にどう接するか?

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授
井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(C)日刊ゲンダイ
「ファウルライン」を示して「敗者復活」の道しるべをともに考える

【Q】
 18歳男子の母親です。息子が小学生のときに離婚し、看護師として病院に勤めながら、息子を育ててきました。息子は高校の野球部をケガで退部してから、非行に走るようになりました。高校で禁じられているバイクに乗り、喫煙が見つかって停学に。さらに、他校生徒との集団乱闘事件の首謀者とみなされ、退学処分になりました。その後、通信制高校に編入したものの、喫煙・飲酒事件に続き、車の窃盗・無免許運転事件を起こして逮捕され、退学になって、少年鑑別所に入りました。いまは母親の監督を条件に出所して家にいます。私は現在、2交代勤務で、息子と関わる時間は多くありません。すっかり気難しくなってしまった息子と、どう付き合うのか困難を感じています。

【A】
 とても心配ですね。まず、お母さまとしては、看護師の仕事はお続けになることです。働く母の後ろ姿というものは、思春期の息子の目に入っているはずです。生きていくとはどういうことかを、身をもって示すべきです。

 お母さまだけでなく、親戚の方々などいろいろな人に関わってもらって、彼を取り巻く“チーム”をつくるのがよいでしょう。大人たちとしては、大きな逸脱をさせないために小さな逸脱には目をつぶる度量も必要です。

 彼は、尾崎豊の歌に出てくるような若者です。まだ社会規範が内面化していない年代ですから、「ファウルライン」がどこかを確かめたくて、ぎりぎりを狙ってきます。夜の校舎の窓ガラスは壊して回っていないようですが、盗んだバイクで走り出すぐらいは何度かやっているのでしょう。

 大人たちとしては、小さな逸脱には目をつぶるとしても、「これ以上は許されない」というときには妥協せず、断固とした態度をとるべきです。平生は少々の非行には目をつぶっても、「これだけは許されない」というときには、厳然たる処分を下すことです。こうして、社会のルールというものをご子息にカラダで覚え込ませるのです。

 器物損壊、窃盗、無免許運転などの触法行為に対しては、責任をとらせていいと思います。鑑別所に入ったのも、彼にとっては必要な経験だったと思います。そうしないと、彼にはいつまで経ってもルールというものが分からないでしょう。

 ご子息の逸脱行動には、「ファウルラインがどこだか教えてくれ」という大人たちへのメッセージも含まれていると理解するべきです。ここで大人たちが優柔不断な態度をとると、彼はいつまで経っても「どこまではOKなのか、どこからは許されないのか」が分からない。結局のところ、またも無益な破壊行動を繰り返すでしょう。

 その一方で、「敗者復活戦」の機会を与えることも必要です。ご子息も可能性のある若者です。大人たちとしては、彼に対して規範を叩きこむ厳しさとともに、次のチャンスを用意する優しさをもって臨むべきでしょう。

 学業、資格取得、就労などを支援し、ご子息が自力で未来をつくっていけるよう、敗者復活戦の具体案を一緒に考えてやることが必要でしょう。

井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。