役に立つオモシロ医学論文

幸福でも不幸でも寿命は変わらない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「不健康」といわれるような状態は、多くの場合で「幸福な状態」とは明言できないかもしれません。なにか重大な病気を抱えて生きていくことは決して楽ではないでしょう。

 しかしながら、「幸福か」「幸福ではないか」は、一律に線引きができない問題です。何が明確に幸福ではない状況なのか、客観的に決めることは困難でしょう。「不健康が幸福ではない」かもしれないということは想像しやすいかもしれませんが、幸福ではない状況が不健康だと断言できません。

 世界的に有名な医学誌「ランセット」の2015年12月9日(電子版)に「幸福ではない状況と死亡リスクの関連」を検討した興味深い研究結果が掲載されています。

 この研究は英国女性71万9671人(年齢中央値59歳)を対象とした前向き観察研究です。研究開始時に参加者の自己報告に基づいて、「幸福を感じる時間」「健康」「ストレス」「感情のコントロール」などについての調査が行われています。

 調査対象者の39%にあたる28万2619人が「ほとんどの時間幸福を感じる」、44%にあたる31万5874人が「たいてい幸福を感じる」、 17%にあたる12万1178人が「幸福でない」と回答しています。なお、解析にあたり年齢や自己報告に基づく健康状態、生活習慣など結果に影響を与えうる因子で補正しています。

 平均で9.6年の追跡調査の結果、幸福でない人たちは常に幸福である人に比べても、総死亡、心臓病による死亡、がんによる死亡のリスクはいずれもほぼ同等でした。幸福でない状況が必ずしも死亡のリスクを増加させるわけではないことが示唆されています。

 ただ、幸福でない状況で長生きするというのも、なかなかつらいところかもしれませんが……。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。