どうなる! 日本の医療

高額療養費制度の限度額が最大5倍に引き上げられる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ
金のない老人は病院に行けなくなる

 再来年をめどに、70歳以上の高額療養費制度の限度額(月額)を最大5倍近くに引き上げるたくらみが進んでいるのをご存じだろうか。与党・政府内で検討されていて、決定すれば一部の金持ちを除いた70歳以上は、先進的な薬や手術、検査法を受けられなくなりそうだ。

 この事態に、全国10万5000人の医師、歯科医師を擁する「全国保険医団体連合会(保団連)」の住江憲勇会長は怒り心頭だ。

「来年夏の参院選対策のため、低年金受給者約1250万人を対象に一律3万円の臨時給付金のバラマキを決める一方で、参院選後に70歳以上の高額療養費を最大5倍近くも引き上げようとしているのですからムチャクチャです。安倍政権は“年寄りは現金3万円を渡せば文句は言わないだろう。その後は医療などを受けずに黙って死ね”と言っているようなものです」

 超高齢化社会に突入する中、43兆円にまで膨れ上がった医療費をどう削減するのか。確かに大問題だ。しかし、これまで手をこまねき、どん詰まりになるまで放置した責任は、政府・与党にあるのではないか。にもかかわらず「世代負担の公平さ」という名の下に低所得の高齢者を狙い打ちする財務省や政府は、悪辣としか言いようがない。

■外来なら現行の2倍~5倍の負担も

 具体的に高額療養費制度が改悪されるとどうなるのか。仮に70歳のAさんの入院医療費が1カ月100万円かかったとしよう。現行では①Aさんの年収が370万円以上なら、その自己負担限度額は8万7000円。②Aさんの年収が370万円以下なら、約4万4000円となる。③Aさんが住民税非課税になるほど低所得だと2万5000円。④年金収入80万円以下なら1万5000円の負担だ。

 これを財務省の提案に沿って試算すると、入院の場合、現行の1.3~3倍、外来の場合は現行の2~5倍になるという。

 すなわち、①のケースは現行の8万7000円から最大25万4000円(ただし所得水準に応じて)。②は現行より1万4000円以上高い5万8000円以上。③の住民税非課税の人は2万5000円から3万5000円へ。④のケースは現行の1万5000円が3万5000円にアップするという。

「入院でなく外来受診の場合は、年収370万円までの人は現行1万2000円の限度額が5万8000円以上という、驚くべき数字が検討されています。こうなると、低所得の高齢者で少し高額医療になりそうな人は、支払いが恐ろしくて受診できません。しかも、財務省は75歳以上の後期高齢者の窓口負担を現行の1割から2割に引き上げることも検討しています。消費税の10%アップも既定路線で、社会保障の一体改革も『医療・社会保障充実のため』は全くの嘘。断じて許せません」(住江会長)

 高齢者は1人3万円の臨時給付金で未来を失ってはいけない。

村吉健

村吉健

地方紙新聞社記者を経てフリーに転身。取材を通じて永田町・霞が関に厚い人脈を築く。当初は主に政治分野の取材が多かったが歴代厚労相取材などを経て、医療分野にも造詣を深める。医療では個々の病気治療法や病院取材も数多く執筆しているが、それ以上に今の現代日本の医療制度問題や医療システム内の問題点などにも鋭く切り込む。現在、夕刊紙、週刊誌、月刊誌などで活躍中。