Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【大渕愛子さんのケース】子宮頸がんはワクチンと検診で撲滅できる

大渕愛子さん
大渕愛子さん(C)日刊ゲンダイ
SEXでウイルス感染

 弁護士の大渕愛子さん(38)が、子宮の異常で手術を受けたそうです。報道によると、7月に受けた健康診断で、子宮がん検診の項目で異常を指摘され、精密検査を受けたところ、「子宮頚部高度異形成」との診断。経過観察する選択肢もありましたが、3月に生まれたお子さんのことも考えて、早期治療を望み、子宮頚部円錐切除術を受けることを決断したと報道されました。

 子宮頚部とは、子宮の入り口のことで、高度異形成は前がん状態。今後の進行によっては、子宮頚がんになる恐れがあるということです。そのリスクを摘み取るため、早期治療に踏み切ったのでしょう。

 子宮頚がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因。セックスで感染しますが、性体験のある女性は、8割が生涯に一度は感染するといわれています。

 HPVはごくありふれたウイルスで、通常は免疫力によって自然に排除されるため、問題はありません。免疫力が低下したり、持続的に感染したりすると、やがてがんになるのです。毎年1万人ほどがこのがんを発症、2700人が命を落としています。全体としての患者数は減少傾向なのですが、若年発症が増えているのです。

 若年発症者の増加は、セックスの低年齢化が影響しています。1990年、高3の女子生徒のうち、性体験があったのは1~2割。現在は半数近くに増加。その結果、15~19歳の女子でも、3人に1人はHPVに感染しているのです。

■発症のピークは30代

 80年ごろ、子宮頚がんの発症のピークは60~70歳でしたが、今は30代に低下。大渕さんのケースは、子宮頚がんを取り巻く現状と重なるのです。10代、20代の患者さんも少なくありません。欧米では“過去のがん”といわれていて、患者数が減っていますが、日本では“現在進行形のがん”なのです。

 なぜ、欧米で子宮頚がんが“終わったがん”なのか? ヒントは、HPV感染にあります。理論上、感染をブロックできれば、発症を食い止めることができますが、セックスしないというのは現実的ではありません。そこで登場したのが、子宮頚がんを防ぐためのワクチンです。

 欧米では広く普及していて、オーストラリアでの接種率は9割。HPVには複数のタイプがあって、ワクチンですべてをブロックできるわけではありませんが、それでも7割は予防できます。

 ワクチンと同様に子宮頚がん予防に効果的なのが、検診です。大規模な臨床研究により、子宮頚がんは「検診で死亡率が下がる」ことが証明されています。つまり、ワクチンと検診の二段構えで子宮頚がんは撲滅することができるのです。

 ワクチンには、副反応問題がありますが、ワクチン接種で子宮頚がんの発症が3分の1に減るというメリットの方が、副反応のデメリットより上回るといえます。“マザーキラー”と呼ばれるがんを防ぐには、ワクチンと検診が大切なのです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。