薬に頼らないこころの健康法Q&A

引きこもりのわが子にどう接するべきか?

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授
井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(提供写真)

【Q】
 16歳男子の父親です。中学生のころから内向的で、友人も少ないタイプでした。私立の進学校に入学しましたが、友人といさかいがあって不登校となり、1年の秋に退学。単位制高校に籍を置いたものの、なじめなくなって退学し、現在は終日、6畳の自室にこもっています。

 本人は、「親の価値観を押し付けるな」「一番つらいのは俺だ」などと言っています。親としては自分たちの価値観を息子に押し付けるつもりもないし、一番つらいのが息子自身だということもよくわかっています。でも、どうしたらいいのかわかりません。どう息子に寄り添っていけばいいのでしょうか。

【A】
 お父さまは、もう十分、息子さんの心をわかってあげているし、今の接し方が間違っているわけでもないと思います。

 私どもの科は県内の医療機関としては最も多くの「不登校」「ひきこもり」を診ています。ひきこもりの若者たちを前にして、私どもは「わかってあげよう」とか「寄り添ってあげよう」といったことは、そんなに考えていません。むしろ、「そんなに家の中にこもっていては、退屈じゃないのか」「運動不足は体によくない」といった、ひどく当たり前のことから語りかけます。

■若者は退屈には耐えられない

 息子さんの場合も、ずっと家にこもっている日々でしょうから、退屈しているはずです。それに、16歳の若い肉体にふさわしい活動を行っていませんから、体の調子もよくないはずです。この程度がわかれば、もう十分です。

 若者は退屈には耐えられません。だから、わくわくする経験であれば何でもいいのです。とにかく息子さんを誘ってみましょう。最初は勉強とは関係ないことがいいでしょう。もし、お父さまの趣味がゴルフなら、一緒に打ちっぱなしに行ってみてもいいでしょう。スキーやスノーボードが好きなら、スキー場に連れて行ってもいい。そのほか、乗馬、サーフィン、カヌーなどアウトドア系のスポーツは、何であれ若者は興味を持つはずです。

 息子さんがスポーツに苦手意識があるようなら、野外でのキャンプ、釣り、バードウオッチングでもいい。親戚の酪農家の家に滞在して、牛や豚の世話をするのだっていいのです。鉄道好きなら鉄道旅行でもいいし、岩石や鉱物に興味があるなら採集旅行に出てもいいでしょう。文学少年ならば、作品の舞台を訪ねてみる日帰り旅行。絵が好きなら、美術館や画廊を回ってみてもいいでしょう。機械が好きなら、マウンテンバイクでも買って、構造・機能を研究しつつサイクリングもやって、心身ともに充実した時間を過ごすのもいいでしょう。

 とにかく、息子さんの関心を自室の6畳の空間から外へ向けさせることです。知的な刺激を与えること、そして、そのための活動が結果として適度に肉体を疲労させ、体に好影響を与えるものがいいのです。

■偶然が人生を変えることも

 そのうち、ふとした出来事をきっかけに、本人はガラリと変わります。たとえば、美術館で偶然出会った美大生の女性の美しさにひかれ、それがきっかけとなって、突然、勉強を再開するなどです。

 若者は、小さなきっかけで別人のようになります。そんな偶然が発生しやすい条件を整えてあげればいいのです。

井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。