医者も知らない医学の新常識

話しかけられ歩みを止める人は骨折しやすい

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 お年寄りが転倒して骨折することは、お年寄りのその後の人生を大きく左右する大問題です。それまで元気に活動していた高齢者も、1回つまずいて転んでしまうと、それがきっかけとなって寝たきりになってしまうことが多いのです。

 多くの人は、老人の骨折は転倒時に何かにぶつかるからだと思いがちですが間違いです。体力や運動能力の衰えから、ちょっとした段差につまずいて転ばないようにと踏ん張ることで、足の付け根にひねるような力がかかり、それで足の骨が折れてしまうことが多いのです。これがお年寄りに頻発する「大腿骨頚部骨折」です。

 それでは、どのようなお年寄りが転びやすいのでしょうか? ちょっと単純過ぎて、誰も改めてはあまり考えないような疑問を科学的に検証した論文が、1997年の「ランセット」という有名な医学誌に発表されています。スウェーデンの高齢者施設で、歩いているお年寄りに歩きながら話しかけ、歩いたまま話を続けられるか、それとも話しかけられた瞬間に止まってしまうのかを調べました。

 すると、歩きながら話せた人は、半年後にも8割近くは転びませんでしたが、止まってしまった人の8割以上は半年以内に転んでしまったのです。なぜこうしたことが起こるのかというと、しゃべりながら話すという動作は2つのことを体が同時にしているので、こうした能力のある人はとっさにうまく転ばないような行動が取りやすいからです。

 皆さんは歩きながら話せますか? それとも、話しかけられると止まってしまうでしょうか?

石原藤樹

石原藤樹

信州大学医学部医学会大学院卒。同大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科研修を経て、1998年より「六号通り診療所」所長を務めた。日本プライマリ・ケア学会会員。日本医師会認定産業医・同認定スポーツ医。糖尿病協会療養指導医。