薬に頼らないこころの健康法Q&A

“思春期の不安”に薬は必要か

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授
井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(提供写真)
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は要注意


 17歳、高校3年生女子の母親です。2年生ごろから起床時に頭痛やふらつきがありました。3カ月前の朝礼の際に過呼吸発作を起こして倒れてしまい、救急車で総合病院へ。そこの小児科から紹介され、近くの精神科クリニックに通うようになりました。精神安定剤を1日2回、さらに不安時頓服薬として別の種類の安定剤ももらっています。ただ、このところ1日2回の安定剤では不安や動悸が治まらず、不安時頓服薬を1日3回くらい使うこともあります。精神科の先生は、頓服薬の使用を勧めるのですが、薬の量が増えていくので、親としては心配です。


 お嬢さまがお使いになっている「安定剤」というものの詳細はよくわかりませんが、仮にそれが「ベンゾジアゼピン系抗不安薬」であるとするなら要注意です。以下、お嬢さまのお薬がベンゾジアゼピン系抗不安薬であると仮定して述べていきます。

 ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、本邦で「安定剤」として多くの医師が処方しています。精神科の専門医のなかにも、この薬剤をかなりの量、長期間にわたって処方している人がいます。しかし、諸外国の学会はこの薬剤の長期使用に警鐘を鳴らしています。理由は、依存性があるからです。

 お嬢さまは、頭痛、ふらつき、不安、動悸、息切れ、震え、過呼吸などがあって、それを抑えるために安定剤を使い始めたはずです。それを飲むと劇的に効いていたことでしょう。多分、今も飲めばスッと効く感じがあるはずです。だから、「薬、薬」と薬を使いたがるのだと思います。

 でも、おそらくはお嬢さまもお気付きだと思いますが、初めて使ったころと比べれば、いまひとつ効果がよくない。それに、薬が切れるころになると、またしても同じ症状が出る。だから、薬が切れないうちにまた薬を飲もうとして、その結果、薬が増えていってしまったのだと思います。

■未成年者が自分の判断で飲むべきではない

 この薬剤は、半世紀前に登場した際は「依存性の低い安全な薬剤」として喧伝されていました。しかし、それは間違いであったことが判明しました。1980年代ごろから諸外国の学会はこの薬剤の依存性について警告を発していて、医師たちはすでに処方を控えるようになっています。

 残念ながら日本の医師たちの認識は、甘いものがあります。諸外国と比較して、本邦のベンゾジアゼピン使用量はずばぬけて多いのが現状です。医師たちが弊害についての認識を持っていないからです。

 ともあれ、お母さまとしては、次のことにご留意ください。まず、薬は定時薬、頓服薬ともお母さまが管理してください。ベンゾジアゼピンは大半が「麻薬及び向精神薬取締法」という法律の管理下にある薬剤です。麻薬と併記されるほどの薬を未成年者が自分の判断で服用してはなりません。

 それから、医師とベンゾジアゼピンの常用量依存について率直に話し合ってください。そして、漸減の方法を考えてもらってください。医師に減らす意思がないならば、通院先を変えるべきだと思います。ホームページ等で「お薬を減らす」とか「薬に頼らない」ことを明言していて、多剤併用の状態から漸減していくことに習熟した医療機関を探すべきだと思います。

井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。