病院は本日も大騒ぎ

病室に乗り込んできた愛人

 こんにちは。首都圏の総合病院で看護師長を務めている看護師歴十数年のサトミです。

 患者さんが入院すると、身の回りの世話などを目的に毎日のようにご家族の方々が病院にお見えになります。社会的に地位が高い人は付き合いも広いのでしょうか、見舞客が後を絶ちません。逆に、家族はもとより知人、友人など、誰も見舞いに来る気配がない寂しい入院患者さんもいます。

 病院ではこうしたさまざまな人間模様を見ることができますが、とくに、死期が迫っている患者さんの病室では、予想もできないドラマが展開されます。

 どの病院でもそうでしょうけど、死期が近い患者さんは、相部屋から個室に移されます。

 その個室に看護師が入室するとき、もし家族や知人が病室に見舞いに来ている場合は入り口で断ってから入ります。

■「葬儀はウチでやります」に妻絶句

 ある日、個室の前を通り過ぎようとしたところ、言い争う女性の声が廊下に漏れてきました。

 不穏を感じて入室すると、酸素マスクをつけてベッドに寝ている患者さんを挟み、50代の奥さんと40代の女性2人がにらみ合っています。

 私が入室したことに気がつき口論をやめたのでしょう。静寂のなかに重い空気が漂っていました。

 やがて40代女性が帰った後、奥さんから再び個室に呼ばれ、悲痛な相談を受けることになりました。

 病室でその女性と初めてお会いしたそうですが、これがご主人の愛人だといいます。長く付き合っていたことを告げられ、お詫びの言葉はなし。しかも、「葬儀は私の家でやりたい」と強く主張したそうです。

 ご主人に愛人が存在していたことはうすうす知っていたそうですが、初対面でいきなり葬儀を持ち出されたことで気が動転し、つい喧嘩になってしまったと、泣き崩れていらっしゃいました。

 申し訳ありませんが、こうした難題に看護師は役に立ちません。

 冷たいようですが「相談をされても、どう返答していいのかわかりません。2人でよく話し合ってください」と申し上げるのが精いっぱいでした。