医療数字のカラクリ

「生き残った人だけの治療法」に意味はない

 もちろんそういう可能性はあります。しかし、そうとも限らずまったくデタラメということもあります。

 その一例をあげてみましょう。先ほどと逆に、6カ月以内に亡くなった進行がんの患者さんを調べてみたら、これまた全員がAという治療を受けていたとしたらどうでしょう。これでは有効な治療とはいえません。生きている人だけを調べれば生存率は100%です。つまり「生き残った人」だけでなく、「亡くなった人」も全部調べる必要があるということです。

 多くの医療の情報が、生き残った人たちだけを調べ、“生き残った人はこんな治療をしていた”なんてやっています。気を付けましょう。慣れれば簡単に見破れます。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。