天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

低侵襲手術は本当に体にやさしいのか

順天堂大医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 ところが90年代に入ると、外科治療に「低侵襲」という方向性が登場しました。治療の負担を軽減し、より患者さんの体にやさしい治療法を推し進める流れが強くなってきたのです。

 心臓手術でいえば、「MICS(ミックス)」と呼ばれる方法が現れました。胸骨を大きく切らない小切開手術で、すべて内視鏡を使って処置するケースもあります。「体の負担が少なく短期間で退院できる」といったメリットが喧伝され、実施する外科医も増えています。

 しかし、問題があるのも事実です。小さく切開した範囲の中で従来と同じような手術を行うわけですから、当然、難易度は上がります。視野は狭くなり、手技も制限を受けるので、それだけ手術時間も余計にかかることになるのです。これまで外科治療が進歩してきた方向性とは逆行しているといえます。

■必要ない患者に実施されるケースも

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。