天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

低侵襲手術は本当に体にやさしいのか

順天堂大医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 明らかに従来の手術より患者さんの負担が少なく、治療効果も遜色がないといったデータが蓄積されてくれば、低侵襲手術に進むことは正しいといえますが、まだ正当性を裏付けるデータが足りない印象です。もっともっと時間をかけて検証するべきで、個人的には今するべきことではないのでは、と考えています。 別の大きな問題も出てきています。何よりも低侵襲ということを優先させるため、低侵襲手術に合った患者さんを無理に探し出し、選択するようになってきているのです。その結果、これまでなら手術はしないような病状の軽い患者さんに対し、「低侵襲手術ができるのだから」という理由で手術するようになります。これは、患者さんにとって決してプラスとはいえないでしょう。

 心臓手術の場合、早い段階で手術をすることがむしろマイナスになるケースが多いといえます。心臓にメスを入れると、術後は一定期間、どうしても心臓の働きが落ちてしまいます。そのことで、脳梗塞など他の合併症を招くリスクがアップしますし、術中に合併症を起こす可能性もゼロとはいえません。手術を受けることで、逆に寿命を縮めてしまうケースもあり得るのです。

3 / 4 ページ

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。