Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【飲酒+喫煙】食道がんが芸能人に多いのはWパンチのせい

左から、やしきたかじん、淡路恵子、中村勘三郎も愛煙家だった
左から、やしきたかじん、淡路恵子、中村勘三郎も愛煙家だった(C)日刊ゲンダイ

 飲酒や喫煙が、発がんのリスクになることは、よくいわれています。それぞれが個別に語られることはありますが、この2つが一緒にまとめて論じられるケースはあまりありません。そこで、今回は、「飲酒+喫煙」とがんとの関係について紹介します。

■発病リスクが10倍にハネ上がる

 結論から言うと、お酒もたばこもたしなむ人が最も発症しやすいのが、食道がんです。このタイプは、どちらもやらない人に比べて、発症リスクが10倍。前回、飲酒で顔が赤くなる人ほど、発がんリスクが増すと書きましたが、そういう人がたばこを吸い、なおかつ毎日、日本酒換算3合以上飲むと、食道がんの発がんリスクは30倍にハネ上がるのです。

 飲酒だけなら、食道がんの発症リスクは、飲まない人に比べて、日本酒換算2合未満で2.6倍、2合以上で4.6倍。喫煙のリスクは、「1日に吸う箱数」と「喫煙年数」を掛けて算出しますが、20未満なら食道がんになるリスクは、吸わない人に比べて2.1倍、40以上で4.8倍。

 どちらも、発がんリスクであることは間違いありませんが、単独ならそれほどでもありません。喫煙と飲酒は、ダブルで続けることがよくないのです。喫煙も飲酒もという方は、いきなり両方をやめることは難しいでしょうが、まずはどちらか控えること。

■芸能人と食道がんの関係

 一昨年、食道がんで命を落としたやしきたかじんさん(享年64)には、何度もセカンドオピニオンで治療法についてアドバイスしましたが、頬がこけるほどの状態でもたばこを吸い、療養中もワイングラスを傾けていました。食道がんで亡くなった女優・淡路恵子さん(享年80)のひつぎには、ブランデーとたばこが納められたそうで、酒とたばこを愛していたことがうかがえます。

 母校・暁星学園の先輩・中村勘三郎さん(享年57)は4年前、立川談志さん(享年75)は5年前に食道がんで命を落としています。お2人とも、最期まで酒とたばこをたしなんでいました。

 食道がんが芸能人に相次いでいるのは、「飲酒+喫煙」の生活習慣が多分に影響していると思われます。私は、30年近くがん治療に携わっていますが、食道がんの患者さんで、酒もたばこもやらない方は、ほとんどいません。それくらい、ダブルでの影響が強いのです。

 このがんが厄介なのは、食道の外側を覆う膜がないため、早期に転移しやすいこと。勘三郎さんも、診断された時点で、リンパ節に転移がありました。そんな事情から、転移がんを叩くため、手術と並び、放射線と抗がん剤を併用する「化学放射線治療」も行われていますが、放射線単独に比べて副作用が強くなりやすい。

 苦しい治療を免れるためにも、予防と早期発見が第一。「禁酒+禁煙」が無理なら、どちらかを控えることです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。