当事者たちが明かす「医療のウラ側」

薬剤使用で“口腔殺菌” 歯磨きよりも有効なのか?

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「先生、歯磨きしないで口をキレイにする方法ってないのですか?」

 そんな質問を投げかける患者さんがおられます。どうやら“薬を使って簡単に口腔内をキレイにしたい”と思っているようです。そうすれば健康が維持できると考えているのでしょう。

「病気の原因は慢性炎症」という考え方があります。本来、無菌であるべき血管の中に細菌が侵入、全身に慢性炎症が起きることでさまざまな病気が発症するという考え方です。実際、心臓や脳の病気で問題になる血管内の瘤(アテローム=血栓)は、細菌によって傷ついた場所を修復することでできるといわれています。それが何かの拍子で破れ、血管が閉塞するなどして重大病を起こすのです。

 ならば、「血管に細菌が侵入できないようにすればいい」ということになります。そこで、がぜん注目されているのが口腔内のケアです。

 ご存じの方も多いでしょうが、細菌が簡単に血管内に入り込める代表といえば歯です。中高年の方は大抵、歯と歯ぐきの間に炎症があり、その下を通る血管に細菌は簡単に侵入できます。

 そのため、口腔内ケアの基本となる歯磨きを続けると、心筋梗塞や脳梗塞、がん、認知症、糖尿病などの予防に役立つといわれているのです。

 ならば、「歯磨きなんてまどろっこしいやり方をやめて、口腔内の細菌をやっつけるような薬剤を使えばいいのではないか」という考え方を持つ人が現れるのは当然です。

 実際、さまざまな薬剤でうがいをしたり、マウスピースのようなものを作り、そこに強力な薬を塗って細菌を殺すなどの試みが行われています。しかし、それが普及しないのは、その効果が限定的だからでしょう。

 例えば、口腔内には必要な常在菌もいるわけで、それを一網打尽にするのは長い目で見ればマイナスです。また、薬剤の効果を高めるには歯垢をキレイに除去しなければなりません。しかし、歯垢をある程度除去できれば口腔内に悪い細菌がそれほど増殖することはなくなるはずで、薬剤を使う必要性は薄れてしまいます。また、口腔内に細菌が増えるのは噛み合わせや、その人の免疫力にも関わるため、それを治さなければ薬の効果は限定的でしょう。

 いまのところ、健康を維持するためには、やっぱり歯磨きをマメにすることだろうと思います。