役に立つオモシロ医学論文

歩くのが遅い人は早死? 歩行と死亡リスクとの因果関係

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 これまで、複数の研究で「高齢者における歩行速度と死亡リスクの関連性」が示唆されていました。しかしながら日本人でのデータは少なく、その関連性については現段階で不明でした。老年医学の専門誌「Age and Ageing」の2015年1月号に、日本人を対象にした歩行速度と死亡リスクの関連性を検討した前向き観察研究が報告されています。

 この研究は、心臓病、脳卒中、がんを有さない65歳の日本人高齢者2015人(男性990人)が対象となりました。歩行速度について、「どのくらいの速さで歩行していますか?」という質問をして、「遅い」「普通」「速い」の3グループに分類。参加者が75歳になるまで追跡調査しています。なお、調査年、婚姻状況、就労状況、喫煙、飲酒など、結果に影響を与えうる因子で補正しています。

 その結果、女性の死亡リスクは、歩行速度が「普通」グループに比べて、「速い」グループでは81%、統計的にも有意にリスクが低下。これに対し、「遅いグループ」では、統計的な有意差はないものの2倍ほど高い傾向にありました。

 一方男性では、歩行速度が「普通」のグループに比べて「速い」グループではあまり差がないのに対し、「遅い」グループでは72%、統計的にも有意にリスクが増加しました。

 この研究では歩行速度が遅いと死亡のリスクが高い傾向にあることが示されていますが、歩行速度が「速い」と答えた人は自分の身体能力に自信がある人たち。つまり、比較的健常者が多く含まれていた可能性はあります。

“歩くのが遅いと死にやすい”というような因果関係を示したものではありませんが、歩行速度は高齢者の虚弱傾向を示す指標となるかもしれません。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。