Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【糖尿病の人】肝臓、大腸、すい臓、胃に腫瘍ができやすい

斉藤仁(左)と立川談志
斉藤仁(左)と立川談志(C)日刊ゲンダイ
実は血管病より怖い

 糖尿病は、合併症が怖い病気といわれます。感覚が麻痺する神経障害や失明につながる網膜症、人工透析に結びつく腎症などの合併症を患いながら心筋梗塞や脳卒中で亡くなるというのが、よく語られる病気像です。間違いではありませんが、がんとの関係を忘れてはいけません。

「糖尿病の食事療法で痩せ過ぎた」と笑い飛ばした柔道五輪金メダリストの斉藤仁さん(享年54)は昨年、肝内胆管がんで亡くなりましたが、激ヤセはがんによるものと判明。5年前に喉頭がんでこの世を去った落語家・立川談志さん(同75)も糖尿病による不調で休養を繰り返し、1993年に胃がん告白で世間に衝撃を与えたフリーアナの逸見政孝さん(同48)も、70年代から糖尿病を患っていました。

 3人のケースは、糖尿病とがんがたまたま重なったのではなく、糖尿病だからがんを呼び寄せた可能性があります。糖尿病の人の死因は、がんが34%でトップ。そうでない人に比べていくつかのがんにかかりやすいことが分かっているのです。

「糖尿病と癌に関する委員会」の調査では、肝臓がんは約2倍、すい臓がんは約1.9倍、大腸がんは約1.4倍。別の久山町研究では、糖尿病発症からの期間が長いほど、病状が悪いほど、胃がん発症リスクが高まることが示されています。そしてこのほど、国立がん研究センターなどは、糖尿病と診断されていなくても、血糖値が高めだと、がんリスクが高まると報告しました。

■高血糖を防ぐ食事と運動

 なぜ糖尿病の人にがんが多いのか、詳しいメカニズムは不明ですが、高血糖状態がよくないことは間違いありません。これらのことから、がんを防ぐための知恵が浮かび上がってきます。

 糖尿病の人は、糖尿病の治療と並行して毎年、がん検診を受けることがひとつです。2人に1人ががんになる今、糖尿病の人は予備群を含めると2000万人を超えていますが、治療を受けているのは6割ほど。4割は、あえてがんになる道を突き進んでいるともいえるかもしれません。

 もうひとつは、がんセンターの研究から分かるように、なるべく高血糖状態をすぐ改善する生活習慣を身につけること。たとえば、食事のときは野菜から食べて米や麺類などの糖質を最後にする。そうすると、野菜に含まれる食物繊維の働きで、糖質の吸収が穏やかになり、血糖値が上がりにくい。食後に30分くらい散歩するのも、食後高血糖の改善に役立ちます。

 逸見さんは学生時代、無類のコーラ好きで、下宿の窓にコーラの空き瓶を並べることに愛着を感じていたそうです。清涼飲料水や砂糖入りコーヒーをたくさん飲むのは、よくありません。

 がんも合併症も防ぐために、糖尿病の人は高血糖状態をなるべく早く改善してください。ここまで読まれた人は、そのためのノウハウが頭に入ったはずです。きょうから実行しましょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。