薬に頼らないこころの健康法Q&A

「多動性障害」の人生は16ビート

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授
井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(提供写真)
「押さえつける」より「運動」で深い眠りを得ることが大切

【Q】
 小5男子の母親です。幼少期から落ち着きがありませんでしたが、薬を飲むほどではないと思っていました。以前、北海道に住んでいたので、少年アイスホッケーのチームに入れていました。週3回、放課後に通っていました。4年生のときに父親の転勤で東京に転居し、アイスホッケーはやめました。現在は、中学受験に備えて、週3回、塾に通わせています。新しい学校では、なじめない上に落ち着きがなく、学校でも塾でも叱られてばかりです。学校の先生の勧めで、近くの児童精神科のクリニックを受診しました。予想通り「多動性障害」と診断され、「コンサータ」(徐放性メチルフェニデート)という薬を処方されましたが、1回飲んだだけでやめてしまいました。学校の先生は、「病院に通わせて、治療を続けなさい」とおっしゃいますが、親としては戸惑っています。

【A】
 通院も服薬も強制はすべきでないと思います。精神科クリニックは「強制治療」を行う場ではありません。

 ただ、ご子息が落ち着かないので、先生は困っている。本人も毎日叱られて困っている。だから何とかしなくてはいけません。ご子息は、「こころはいつも16ビート」のような活発な少年なのでしょう。現在は、学校や塾でエネルギーが不完全燃焼。そのため、課題は彼のエネルギーをどう燃焼させるかです。

 キーワードは「肉体疲労」です。北海道時代と比べて大きな違いがあります。アイスホッケーから塾へと、放課後の日課が変わったことによるものです。北海道時代は週3回もリンクに立っていたので、かなりの運動量だったはずです。おそらくは毎日、肉体疲労を身にまとって過ごしていたことでしょう。でも、これは悪くはありません。筋肉の疲れは、多動を抑えます。それに、疲労は深い睡眠をもたらし、結果として日中の覚醒度を高めてくれるのです。

 多動は、眠いのに眠れないような、中途半端なときに表れます。目がしっかり覚めて、頭がクリアなら、自制することができます。しっかり目覚めているわけでも、ぐっすり眠っているわけでもない、意識がトワイライトにある時間帯がもっとも多動になります。

 これを人工的に目覚めている側にシフトさせる薬剤が「コンサータ」です。でも、これは不自然な方法です。期間限定で飲んでも構いませんが、いずれはやめるべき薬です。ご子息の場合、自分でやめてしまったので、もう飲まなくていいと思います。

 多動性障害に対する根本的な解決法は、「多動には多動を!」です。多動性を建設的に発揮させ、存分に動き、力尽きてぐっすり眠ればいいのです。ご子息の場合、塾のない日にジョギングでもいい、他のスポーツでもいい、何らかの体を疲労させる日課を組むことでしょう。そうすれば肉体疲労が得られて、深い睡眠がもたらされます。翌日の覚醒度はかえって上がることでしょう。

 ただし、睡眠時間は十分にとらなければなりません。塾のない日は早めに就床させ、塾のある日に短くなりがちな睡眠を補うことです。

 多動性を吸収するものをあてがえれば、問題は解消します。「こころはいつも16ビート」でも、表面に表れた行動はかなり落ち着いてくるはずです。

井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。