映画「Concussion(脳振盪=のうしんとう)」主演のウィル・スミスがゴールデングローブ賞にノミネートされたことがきっかけで、アメリカンフットボール選手が受ける脳への衝撃と、それが原因で発症する慢性外傷性脳症が改めてクローズアップされています。
「慢性外傷性脳症(Chronic traumatic encephalopathy=CTE)」とは、脳振盪など脳が繰り返し傷害を受けることで、進行性の脳変性による脳症を起こすこと。古くからボクシングの「パンチドランカー」として知られています。
慢性外傷性脳症患者の脳には、「タウタンパク質の蓄積」と「脳組織の変性」が確認されています。患者は外傷を受けて数年から数十年後に記憶力の低下や攻撃的な態度が表れるようになり、錯乱や抑うつ状態などの認知症的な症状を呈したり、自殺に至ることもあります。
ウィル・スミス演じる主人公は、実在の神経病理学者ベネット・オマル医師。NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)の選手が何度もタックルされることで受ける脳への衝撃と慢性外傷性脳症の相関関係を証明するため、亡くなった元選手の脳を解剖し、「CTE」という病気を発見しました。映画では、それを断固として認めないNFLとのあつれきを描いています。
現実には、これまでにNFL選手の30人以上が死亡解剖でCTEと判明。生存する30人以上がCTEと思われる症状が見られるといいます。これに対し、5000人近い元NFL選手がリーグを相手取り、「事実隠蔽」に対する集団訴訟を起こしました。そして、オマル医師が警鐘を鳴らしてから10年後にあたる昨年、ついに和解が成立したのです。
アメフトはアメリカで最も人気のあるスポーツです。100億ドルという巨額の経済効果を持つプロリーグ以外にも、全米で120万人近い中高校生がプレーしています。この映画をきっかけに人々の意識が高まり、新たな安全対策も論議され始めています。
▽シェリーめぐみ ジャーナリスト、テレビ・ラジオディレクター。横浜育ち。早稲田大学政経学部卒業後、1991年からニューヨーク在住。
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