医療数字のカラクリ

診断技術がアップすると生存率が伸びる

 検査によって治療できるわけではありませんが、診断技術が進歩すると、がん患者の生存率が一見、よくなったようなデータが示されます。ちょっとややこしい話ですので、よく考えながら読んでください。

 例えばCTやMRIの検査によって、以前の検査より小さな転移巣が見つかるようになった状況を考えましょう。

 新しい検査で遠隔転移が見つかった患者は、がんのステージとしてはもっとも進行した段階である「ステージⅣ」に分類されます。しかし、この患者が以前の精度の低い検査で診断されたらどのようなことが起こるでしょうか。遠隔転移が見つからず、より進行度の低い「ステージⅢ」に分類されます。

 つまり、診断精度が低かった時代の「ステージⅢ」の一部は、診断精度が上がった今の「ステージⅣ」と同じなわけです。以前の分類ではより進行度の低いステージに分類される患者が、いまはより進行度の高いステージに分類されるので、同じ「ステージⅣ」を比べても、診断精度が上がった分、現在の「ステージⅣ」の患者のほうが生存率が高くなるわけです。

 この結果、どういうことが起きるかというと、「20年前の生存率に比べると『ステージⅣ』の患者の生存率が改善した」というようなデータは、必ずしも治療効果による真の生存率の改善ではなく、診断精度が上がったことによる“見せかけの生存率”の改善にすぎないかもしれないのです。過去の生存率との比較は要注意です。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。