高齢になると、活動量が減ったり、腸の動きが衰えたりして便秘が増える。たかが便秘と侮るなかれ。とりわけ冬に便秘を放置していると、命に関わる危険がある。
日本内科学会は、「3日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある状態」を便秘と定義している。日本消化器病学会は、「排便が数日に1回程度に減少し、排便間隔が不規則で便の水分含有量が低下している状態(硬便)を指す」としている。いずれにせよ、高齢になるとポピュラーな症状で、65歳以上の約半数は、便秘改善薬や下剤を使っているといわれている。
■心筋梗塞や脳卒中につながる
スムーズに大便が排出されないとお腹が張り、それだけでも苦しいが、つらいだけではなく命に関わる場合もある。甘く見てはいけない。
便秘の人は、脳梗塞、脳卒中、心筋梗塞といった重大病の発症リスクが上昇することが分かっている。鹿児島赤十字病院の研究報告では、便秘の男性は便秘のない男性よりも心血管イベントのリスクが高いという。
米国で行われた閉経後の女性7万人を対象にした研究でも、便秘の重症度が上がれば上がるほど、心血管イベントが増えるという報告がある。たかが便秘と思って放置していると、取り返しのつかないことになりかねないのだ。
東邦大学医療センター佐倉病院循環器科の東丸貴信教授はこう言う。
「高齢になると、動脈硬化、高血圧、糖尿病といった心血管イベントのリスク因子をいくつも持っているケースが多くなります。そうした人が便秘に苦しみ、何とか排便しようとトイレで強くいきむと、血圧が急上昇して血管や心臓に大きな負担がかかり、脳卒中や心筋梗塞を招きやすくなってしまうのです」
トイレで軽くいきむと、最大血圧が60~70mmHg以上アップするといわれている。強くいきめばそれだけ血圧もアップするから、リスクはさらに上昇する。
■卵黄や牛肉で腸内バランスを整える
また、とりわけ冬は要注意。普段過ごしている部屋の室温に比べ、トイレの気温が低い場合が多いため、トイレに行っただけでも血圧は急上昇する。そうした「ヒートショック」に便秘によるいきみが加われば、危険はハネ上がる。
さらに、便秘による腸内細菌のバランス崩壊が、心血管イベントリスクを上昇させるとも考えられている。
腸管では1000兆個を超える腸内細菌が集まり、腸内フローラ(腸内細菌叢)を形成している。腸内細菌は、乳酸菌などの善玉菌、大腸菌などの悪玉菌、バクテロイデスなどの日和見菌に大きく分けられ、構成バランスが崩れて悪玉が優勢になると、日和見菌は悪玉的な働きをするようになる。
「便秘による腸管の変化は、腸内フローラの構成に悪影響を与え、悪玉菌を優勢にしてしまうと考えられます。腸内フローラのバランスが崩れると、卵黄や牛肉といった食品から摂取したホスファチジルコリン(レシチン)を腸内細菌が代謝する際、TMAOという物質が産生されます。このTMAOの血中濃度が高いと、心血管イベントの発症が促進されることが分かっているのです」(東丸教授)
便秘は、食物繊維不足も一因になっている。食物繊維が不足していると、腸内フローラのバランスは悪玉が優勢になる。また、コレステロールを吸着する食物繊維が少ないと、それだけ体にコレステロールが吸収され、動脈硬化が進む要因となる。
便秘気味かな? と思ったら、水分を多めに摂取し、食物繊維やビフィズス菌など、腸内環境を整える食品を意識して食べるようにする。ストレッチなどの運動も有効だ。改善しなければ、病院に行って相談すべし。