口のネバつきに注意 インフルエンザ予防は「唾液」がカギ

カラオケが歌いづらい人も要注意(写真はイメージ)
カラオケが歌いづらい人も要注意(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 インフルエンザが流行する季節がやってきた。近年、重要な対策のひとつとして注目されているのが「口の健康維持」だ。中でも問題視されているのは、増加傾向にある「ドライマウス(口腔乾燥症)」である。鶴見大学歯学部付属病院ドライマウス外来の斎藤一郎教授に話を聞いた。

 ドライマウスとは、唾液の分泌が減少し、口の中が乾く症状のこと。具体的には、「口の中がネバネバする」「口の中が不快」「口臭が気になる」「違和感がある」など。「ろれつが回らずカラオケが歌いにくい」「お茶や水がないと食事ができない」と訴える人もいる。

「2002年のドライマウス外来開設以来、6000人ほどの初診患者さんが訪れていますが、重度になると口の中の乾燥に伴う痛みを訴えられます。食事や会話が困難になるケースも珍しくありません」

■知られざる唾液の効果

 口の中は、体の中で非常にセンシティブな組織だ。それゆえに重度の場合はもちろん、軽度であっても口の中の不快感が強く、QOL(生活の質)が著しく落ちる。そればかりではない。冒頭で触れた通り、ドライマウスはインフルエンザをはじめ、感染症などのほかの病気のリスクを高める。

「私たちの口の中では、1日1.5リットルの唾液が分泌されていますが、唾液は単なる水分ではなく、ウイルスや細菌の繁殖を抑える役割を担っているからです。また、体の健康を維持するために重要なさまざまな成分も含まれています」

 いくら予防接種をし、マスク着用、うがい、手洗いを徹底しても、インフルエンザウイルスを完全にシャットアウトできるわけではない。それでも唾液の分泌が十分であれば、唾液の抗菌作用や自浄作用でインフルエンザ感染・発症のリスクを下げることができる。風邪のウイルスなどに対しても同様だ。

 さらに、歯周病や虫歯の菌の繁殖も、唾液は抑制する。がん、心血管障害に次いで死因第3位の肺炎を回避する上でも、唾液は重要な存在だ。つまり、ドライマウスで唾液の分泌が減少すれば、これらの疾患に太刀打ちできなくなるかもしれないのだ。

 ドライマウスの原因は、1つに限らない。

「全体の1割はシェーグレン症候群という難病ですが、残り9割は『薬の副作用』『ストレス』『軟らかいものを好み噛む回数が減少したこと』『インターネットなどの普及でコミュニケーションの機会が減少したこと』などが複合的に絡み合っています」

 特に噛む回数やコミュニケーション機会の減少は、ドライマウス患者の増加に大きく関係している。

「唾液腺の機能は筋力に裏打ちされています。しかし、噛む回数やコミュニケーション機会が減少すると、口や舌を動かさなくなり筋力が衰える。ここに加齢が加われば、筋力は一層衰えます」

 重度になればドライマウス外来などでの積極的な治療が必要になるが、基本的な対策は、ストレスを軽減し、よく噛み、よく話すことだと斎藤教授は強調する。

「これなしでは根本的な解決に至りません。噛み応えのある食事を心がけて噛む回数を増やし、おしゃべりしたり笑ったりする機会をたくさんつくることで、ドライマウスを防ぐことはできます」

 メールやSNSより、口に出しての“人間らしい”コミュニケーションを。

■4人に1人が…

 欧米の疫学調査では人口の25%が該当するといわれていて、日本での推定患者数は約3000万人。ただ、適切な治療にたどり着いている人はまだまだ少ない。1割の患者が該当するシェーグレン症候群は、目や口が乾く、関節が痛むなどの症状がある自己免疫疾患。

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