医療数字のカラクリ

がん患者に見る「雨乞い効果」と「治療効果」

 進行がんに対してある治療をしたら、1年後に全員が生きていたというような話を聞いたことはありませんか。大抵の人は「治療のおかげで生き延びることができた」と考えるはずです。しかし、実際に「治療のおかげで長生きできた」と言うには、多くのなかなか難しい問題が潜んでいます。

 その例として「雨乞い」について考えてみましょう。“日照りが続いて稲が育たない”“雨乞いの踊りをして雨を降らさないとみんな飢えて死んでしまう”という状況にあったとしましょう。

 そこで、村を挙げて雨乞いの踊りをしたところ、「翌日には雨が降った」としたら、多くの人は「それはたまたま雨が降っただけでしょう」と言うに違いありません。

 それは雨乞いの効果で雨が降ったわけではなく、偶然雨が降っただけだというわけです。

「治療をしたら長生きできた」というのも、実はこれと同じかもしれません。偶然、がんにもかかわらず長生きできた人たちばかりに治療をしていたかもしれないからです。

 甲状腺がんや前立腺がんのように進行が遅いがんでは、1年くらいでは死なない人が多く、こんなデータはいくらでも出せます。また、進行の速いがんであっても、治療をして最終的に生き残った人だけを後から選んでデータにまとめれば、1年後の生存率は100%と示すことは簡単です。

「がんは放っておくと必ず死ぬ」という思い込みがあり、「治療をするとそのおかげで長生きできた」と勘違いしやすい。雨乞いとは異なり、ウソを見破りにくい状況があります。そこにつけ込んで、まったく効果がない治療をあたかも大きな効果があるかのように見せかける人たちがたくさんいて、がんの患者さんを狙っているのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。