心臓の手術には莫大な費用がかかるんじゃないか……。こんなイメージを抱いている人が多いのではないでしょうか。日本はこれからますます高齢化が進み、心臓にトラブルを抱えた患者さんが増えるのは間違いありません。もし自分がそうなったとき、そんな大金は払えないかもしれないと、不安に思っている人もいるでしょう。
たしかに、心臓の治療はそれなりに高額です。例えば、血流再開治療のひとつ「カテーテル治療」は1週間程度の入院を含めてだいたい100万~140万円、公的保険の適用で3割負担の場合は約30万~40万円ほどかかります。
「外科手術」になると、2週間弱の入院を含めておよそ300万~500万円(3割負担で約100万~150万円)。患者さんの重症度や他に病気があるかどうか、入院期間によっても変わってきますが、冠動脈バイパス手術や心臓弁膜症の弁置換術も、目安としてはこの範囲に収まると考えていいでしょう。
もちろん、病状によっては、もっと高額になるケースもあります。先日、私が執刀した胸腹部大動脈瘤の患者さんの再手術は、手術の手技だけで約250万円(3割負担で75万円)、これに、人工血管、人工心肺の使用、麻酔や輸血の費用などが加わり、トータルで800万円(3割負担で240万円)ほどになりました。
こうした金額だけをみると、「とても手術は受けられない……」と感じるかもしれません。しかし、いたずらに不安になる必要はありません。公的保険の制度である「高額療養費制度」が使えるからです。高額な医療費がかかってしまったときに患者さんの自己負担を軽減する制度です。
自己負担限度額は年齢や収入によって異なりますが、70歳未満で一般所得(年収約370万~770万円)の人であれば、1カ月の自己分限度額は「8万100円+(医療費-26万7000円)×1%」です。例えば、冠動脈バイパス手術を受けて1カ月の医療費が400万円だった場合は、病院に支払う金額は11万7430円+差額ベッド代や食事療養費で済むのです。
ただし、事前に「限度額適用認定証」を提出していなければ、退院時にいったんすべての医療費を病院の窓口で支払い、後から差額を払い戻してもらう形になってしまいます。そうなると、手元にお金がない場合はひとまず借金をして医療費を支払わなければなりません。
こうした事態を避けるため、70歳未満の人が心臓の手術や治療で高額な医療費がかかりそうなときは、自分が加入している健康保険組合などの窓口に出向き、限度額適用認定証を発行してもらってください。そうしておけば、窓口での支払いは自己負担限度額の範囲内で済みます。70歳以上の人は、限度額適用認定証がなくても自動的に自己負担限度額の範囲内になるのが一般的です(住民税非課税世帯は限度額適用認定証が必要)。
他にも、さらに自己負担額が軽減される条件や、申請が必要になるケースもあるので、自分が加入している公的保険の窓口へ問い合わせて確認しておくといいでしょう。
また、ペースメーカーの埋め込みや人工弁置換術の予定手術を受けるときは、所得や住民税課税などの条件によっては、「自立支援医療」として医療費の自己負担額が軽減されるケースがあります。対象になる疾患や年齢、自己負担限度額は、自治体や世帯所得によって異なります。自分がこの制度を使えるかどうかは、治療を受ける病院や自治体の窓口に相談してみてください。
こうした公的な保険制度とは別に、自分が加入している民間保険や勤務している職場で補助が出る場合もあります。病気になる前に、自分がどんな保障を受けられるかどうかを確認しておくことは、病気に対する漠然とした不安を解消することにつながります。病気になってしまったときは、患者さん自身が確認、手続きするよりも家族が手分けして行う方が治療に専念できて良いでしょう。
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高額療養費制度で自己負担は減らせる