Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【西川きよしさんのケース】前立腺がん“治療しない”選択肢もある

西川きよし&ヘレン夫妻
西川きよし&ヘレン夫妻(C)日刊ゲンダイ

 タレントの西川きよしさん(69)が、前立腺がんの治療で休養すると報道されました。すでに入院し、手術を受けた後、経過を見て2月中旬に復帰するそうです。昨年末の定期健診で見つかったがんが早期だったことが短期間の休養で済む要因と思われます。

 前立腺がんの患者数は昨年の推計で約9万8400人。大腸、肺、胃の3大がんより4万人ほど少ないものの、この30年で20倍に増加。昨年の罹患数予測では男性のがんのトップになっています。西川さんのケースを参考に前立腺がんの対処法を頭に入れておくことです。

■70代で3割が発症

 前立腺がんは加齢とともに発症しやすく、発症頻度は70代で2~3割、80代で3~4割。重要なのは、ほかのがんに比べて悪さをしなかったり、進行が遅かったりするケースが少なくないこと。つまり、がんが見つかっても、悪性度が低ければ治療をせずに経過観察しながら過ごすという選択肢もあるのです。

 西川さんは手術を受けることから、良性ではないのでしょうが、それでも切除すればまず治ります。患者数が急増している割に、死亡数が約1万2000人にとどまっていることからも、穏やかながんということが分かるでしょう。トップの肺がんの死亡数は約8万人。

 だからといって、油断できないのが、このがんの厄介なところ。

 前立腺がんの人が増える60代前後は、尿が出にくい、寝ているときに何度もトイレに起きる、我慢できずおもらしするといった前立腺肥大症の症状に悩む人が少なくありません。前立腺は尿道を取り囲む3~4センチの臓器で、そこにがんができると、前立腺肥大症と同じような症状が表れます。前立腺肥大症の人は日ごろから困っているがゆえ、がんを見過ごす恐れがあるのです。

■早期発見と過剰診療

 前立腺がんは早期なら無症状ですが、進行するにつれ、前述した症状が表れ、さらに近くの骨に転移すると腰痛などを起こします。症状を頼りにすると、発見されたときに進行していたということになりかねません。

 そこで重要なのが、PSA検査。前立腺がんになると、PSAという血液検査の数値が上昇します。これが4ng/mlを超えると、がんが疑われ、4~10だと、がんの確率は25~40%。西川さんもこの検査でがんが見つかったと思われます。

 これが早期発見の一番の“武器”ですが、そこにネックがある。先ほど治療せずに済むケースがあると説明したように、そういうがんを見つけ治療する可能性です。早期発見するがゆえに過剰診療の恐れがあるのです。

 治療の必要性を調べるには、前立腺がんの組織を採取して悪性度を調べる生検を受けるのが一番。その上で泌尿器科医のほか、放射線治療医のセカンドオピニオンを聞き、治療方針について相談するとよいでしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。