脳脊髄液減少症が治る「ブラッド・パッチ」って何だ?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 頭痛やめまいなど、原因不明の不調に悩んでいる人は、「脳脊髄液減少症」という病気の症状かもしれない。先日、この脳脊髄液減少症の治療法「ブラッド・パッチ」に健康保険が適用される見通しになった。4月くらいから実施されるのではないかとみられている。治療の第一人者である国際医療福祉大学熱海病院・脳神経外科の篠永正道教授に話を聞いた。

 脳脊髄液減少症の症状は多岐にわたる。

「代表的なものは頭痛ですが、必ずしもそうとは限らない。めまい、吐き気、だるさ、目がかすむ、耳鳴り、物忘れがひどいなど、いわゆる不定愁訴がいくつも組み合わさっています。そのため、診断が非常に難しい」

 血液検査や画像検査などで異常が見つからない。そのため、患者はあちこちの病院を渡り歩く。心療内科に回される患者も多い。物忘れの症状から認知症と診断され、「高齢だから仕方ない」と診断に疑いを持たれていないケースもある。

「当院でも、全く別の病気で通院していた人をたまたま検査したら脳脊髄液減少症だった、という患者さんが年に数人はいます。患者は10万人や20万人は確実にいるだろうとみているのです」

 今回、保険適用の見通しになった「ブラッド・パッチ」は、患者自身の静脈血を硬膜外に注射する方法。注入された血液が穴をふさぎ、髄液の漏れを防ぐ。注入した血液は1週間ほどで溶けるが、血液の繊維部分が残り、それをベースに組織が再生され穴はふさがれる。1回で終わる人もいれば、数年がかりで行われることもある。

「髄液の漏れが長く続いていた人は、治るのにも時間がかかりやすい。早期発見が肝要です」

 ただし、後ろに倒れる事故後、急に症状が出てきた時は焦ってはいけない。緊急治療を要する病気ではないことを確認した上で、脳脊髄液減少症の治療を行っている病院を受診するより先に、1週間ほど寝て体をあまり動かさず安静にするべきだという。ブラッド・パッチをせずとも、髄液の漏れが止まる可能性がある。

 脳脊髄液減少症は、脳と脊髄を包む硬膜の中を満たす脳脊髄液が硬膜の外に漏れることで起こる。原因不明の突発性もあるが、多くは強い体への衝撃が原因になる。「後ろに倒れる」事故がほとんどで、交通事故、酔っぱらって倒れた、腰を強く打ち付けたといったパターンだ。

■スノボやスキーが原因に

 子供の患者もいて、その場合、いじめで倒された、授業やクラブでの柔道、バスケ、サッカー、剣道、跳び箱、マット運動がきっかけになることも。今の時期なら、スノーボードやスキーが原因になりやすい。

「身近な出来事が発症原因になりやすく、決して珍しい病気ではありません。ところが、脳脊髄液減少症を熟知している医師は少なく、診断に至りにくい。『怠け病』と言われ、不登校になっているお子さんもいます」

 診断をさらに難しくしているのは、症状の出方が患者によってさまざまである点だ。原因の事故などから月・年単位で時間を置いて症状が出てきたり、突然症状が強くなったり、軽い症状が続いて本人が「虚弱体質」と受け止めていたりする。

 この病気は、MRIと腰椎穿刺による脊髄液の漏れのチェックで診断する。全員に当てはまらないものの、「立つと症状がひどくなり、横になると楽になる」という現象が見られるので、そういった患者の訴えが手がかりになることもある。いずれにしろ、脳脊髄液減少症の診断・治療を数多くこなしている医師に診てもらうことが重要だ。

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