脳を育てれば健康になれる

<第2回>勉強した状況の“復元”でより多くを思い出せるように

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ
バラの香りを嗅ぎながら暗記し、その香りを嗅いで寝る

 今から30年前、米国のテキサスA&M大学で学習についての興味深い研究が行われた。54人の学生を①静寂の中②ジャズを聴きながら③モーツァルトを聴きながらの3群に分けて、それぞれ40の単語を覚えさせた。

 その2日後に、予告なしで集められた学生が単語をいくつ覚えているかを調べた。ただし、①の群はさらに3つに分けられ、「静寂」「ジャズ」「モーツァルト」の流れる教室で、②・③も同様にそれぞれ3群に分かれて覚えた単語を思い出した順に書き出すテストが行われた。

 結果は、ジャズやモーツァルトを聴きながら単語を覚え、同じ曲を聴きながらテストを受けた群の成績は、勉強したときと異なる環境でテストを受けた群の2倍も良かったという。

 しかも、静寂の中で勉強しテストを受けた群は最も点数が悪かった。これはどういうことなのか? 心療内科医師で受験生専門外来「本郷赤門前クリニック」の吉田たかよし院長が言う。

「人は情報を思い出しやすいように、検索のための“タグ(札)付け”をしながら記憶しています。音楽を聴いた群の方が静かな中で記憶した人たちよりテストの点数が良くなったというのは、音楽が記憶の“タグ”として利用されたからです。BGMは保存された記憶と脳内で結びついているため、同じ音楽が思い出す手掛かりとなり、より多くの単語が浮かび上がった。静寂ではタグ付けできなかったのです」

 音よりも、さらに記憶のタグ付けが鮮明になるものとして「におい」がある。吉田院長に言わせると、これは動物特有の本能で、例えば象の鼻に息を吹き込んでおくと、その人と30年後に再会した際でも、その人を見分けて出会った時の記憶を思い出すという。

「バラの香りを嗅ぎながら暗記し、その香りを嗅いで寝ると、睡眠中に長期記憶になります」

 嗅覚以外の視覚、聴覚、触覚、味覚などの情報は、いったん間脳にある視床を通って大脳皮質の各感覚領域に送られ、記憶を整理・貯蔵する大脳辺縁系(海馬や扁桃体)に伝わる。ところが、嗅覚だけは嗅神経を通して直接大脳辺縁系に送られる。そのため、嗅覚にまつわる記憶は強烈に思い出しやすいという。

 現在はにおいと記憶についてさまざまな研究が行われ、嫌なにおいほどタグ付けが鮮明で記憶に残るという実験結果も発表されている。