脳を育てれば健康になれる

気分が良いときの勉強で「記憶力がアップする」不思議

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 精神疾患である「双極性障害」の患者の記憶は、状態に依存することが実証されている。「そう」状態に陥ったときの記憶は「そう」状態になったときによく思い出され、「うつ」状態になったときの記憶は「うつ」状態になった時によく思い出されるという。受験生専門外来「本郷赤門前クリニック」院長で心療内科医の吉田たかよし氏が言う。

「気分の良い状態のときを選んで集中的に勉強した方が、効率よく記憶できるので得です」

 米国では、この仮説をもとにマリフアナを使った実験も行われた。

 米国立精神衛生研究所の研究で、30人の若者にマリフアナのたばこを与え、1分30秒の間に48の単語を覚えるように命じた。4時間後、マリフアナの影響が表れなくなると再びマリフアナを吸わせて確認テストを行ったところ、ニセ薬を使った被験者より40%も多く思い出したという。

「実際には、マリフアナや覚醒剤を使い続けると、次第に脳が破壊されるので、結局は記憶力の深刻な低下を招きます。しかし、実験結果が、“気分がふさいだとき”や“勉強したくないとき”に勉強させても効率は上がらないことを証明している点には注目すべきです。体を動かすのが好きな子供は、スポーツのあとに勉強した方が効率が良いことも実証されています」(吉田院長)

 人間の記憶は脳の「海馬」という場所で処理される。米ピッツバーグ大学の研究チームの報告では、有酸素運動を毎日40分ほど続けると、そうでない場合に比べて海馬が2%も大きくなったという。また、運動をすると記憶力を左右する「脳由来神経栄養因子」の働きが良くなることが分かっている。

 しかも、運動をすると脳の働きを妨げるストレスを抑える作用のある物質が分泌される。つまり、運動は脳に記憶力のアップだけでなく、やる気、元気を出す働きがあるというわけだ。

「運動が良いからといって、筋肉ムキムキになるまで頑張る必要はありません。脳を良い状態にするには、ウオーキング程度の有酸素運動だけでも効果があります。大事なことはそれを毎日行うことなのです」(吉田院長)

 試験直前だからといって、親が我が子に学校を休ませて家にこもって勉強させるのは、いかに効率が悪いことなのかが分かる。