Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【西川きよしさんのケース】まずはPSA検査で治療のタイミング探る

西川きよし
西川きよし(C)日刊ゲンダイ

 前立腺がんであることを公表した西川きよしさん(69)は「薬での治療も考えましたが、病院の先生と相談し、今後のことを考えたら、早く除去する方がいいとのことだったので手術する決断をしました」と語っています。早期ということから、がんは転移せず、前立腺内にとどまっていて、根治を期待して手術を選択されたのでしょう。

■悪化するまで最大10年

 薬での治療は、ホルモン療法とみられます。1~3カ月に1回、男性ホルモンを抑える薬剤を皮下注射するもの。

 前立腺がんは男性ホルモンの刺激で増殖するため、ホルモン療法はある程度効果的なのですが、ネックは2~5年で効果が薄れること。男性ホルモンを抑えることで、EDのほか、発汗やのぼせといった男性更年期症状も起こりやすい。

 そんな事情から、ホルモン療法は、手術が難しい進行がんに行われるのが一般的。早期で根治を期待するなら、手術か放射線治療が必要となります。しかし、そのタイミングは、発見してすぐではなく、ケース・バイ・ケースで考えた方がいいかもしれません。

 早期の前立腺がんが命を脅かすようになるまで8~10年かかるとされています。手術で勃起神経が損傷されると、男性機能が失われることもあり、尿漏れも少なくありません。

 そんな後遺症がある一方、手術を受けたグループと受けずに経過観察したグループを比較した結果、寿命に差がなかったとする研究結果もあるため、PSA検査などで様子を見ながら、治療のタイミングをうかがうこともありうるのです。

■脱メタボが予防に

 特に高齢者の場合、PSAの数値が安定していれば、手術を受けずに寿命をまっとうできる可能性もあります。剖検例では、大体4割に前立腺がんが見つかります。がんに気づかず亡くなる方が少なくないことも、タイミング論を後押しする根拠です。

 手術には、1~2週間の入院が必須。いろいろな事情で長く休むことができない人は、経過観察しながらホルモン療法や放射線治療を選ぶことになります。タレントの間寛平さん(66)は6年前、アースマラソンの途中で前立腺がんが発覚しましたが、完走を希望。手術の後遺症で走れなくなることを不安視し、ホルモン療法と放射線治療を選択して、見事、完走されました。

 放射線治療には、体の外から照射する外部照射と前立腺に放射性物質のアイソトープを埋め込む内部照射があります。寛平さんは5週間の外部照射の後、内部照射を受けたそうです。がんの進行が遅いからこそ、その人がどういう生活を送りたいかによって、治療法を選択することが大切なのです。

 前立腺がんに影響する男性ホルモンは、コレステロールを材料に合成されます。日本人の肉の摂取量はこの半世紀で10倍に増え、食の欧米化が進みました。それが、前立腺がん急増の一因ですから、肉や脂っこい食事を控え、適度に運動することは、前立腺がんの予防になります。メタボ予防は、前立腺がんの予防にもなるということです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。