当事者たちが明かす「医療のウラ側」

米大学が健康リスク指摘 高齢者の“免許証返納”が抱える問題

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ
自動車免許を返上した高齢者に対し、社会全体で考えるべきこと

「反射神経が衰え、視野が狭くなった。事故が怖いし、そろそろ自動車運転免許証を返上しようかな」

 そんな高齢者が増えています。高速道路での逆走や、ブレーキとアクセルの踏み間違えといった高齢者の自動車事故の多発を受け、警察も積極的に自動車運転免許証の返納を呼びかけていて、さまざまな工夫をしています。

 例えば、免許証の有効期限内に運転免許証を返納し、その日から5年以内に運転免許試験場に申請すれば「運転経歴証明書」が有料で交付されます。

 これを提示すると、「高齢者運転免許自主返納サポート協議会」の加盟店で特典が受けられます。銀行金利が上乗せされたり、ホテルのレストランの料理や引っ越し代が割引されたり、ドリンクが無料サービスされたりするのです。

 それはそれで結構な話だと思いますが、自動車運転を中止した高齢者は抑うつ症状が出て、健康リスクが高まりやすいことを忘れてはいけません。先日も米国のコロンビア大学医療センターの研究者が報告しています。

 55歳以上の高齢運転者の運転中止による健康への影響を調べた16件の研究を分析したところ、運転を中止した人は中止していない人に比べて抑うつ症状が2倍近く高まり、健康状態や身体機能、認知機能の低下はもちろんのこと、長期療養施設への入所リスクも5倍近くに上昇するというのです。研究の中には死亡リスクアップとの関連を示したものもあったそうです。

 昔から、高齢者の生活満足度や自立は、自家用車を持つことや自動車を運転することに比例するといわれてきました。逆にいえば、それを中止することは高齢者の生きがいを奪うことにもなるのです。

 割引やサービスも良いことですが、自動車免許を返上した高齢者に対して重要なことは、高齢者が自動車運転に代わる満足感や自立意識を持つことのできる何かを見つけてあげることではないでしょうか。

 “おじいちゃんがクルマの運転をやめてくれて安心した”というだけで済む問題ではありません。周りの人はそこから派生する「高齢者の健康リスク」について考えなければなりません。これは社会全体で考える問題だと思います。