新薬登場で注目 「高コレステロール治療」はこう変わる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「夢の薬」という声もある脂質異常症の新薬が、1月末に厚労省から製造販売承認を得た。新薬登場によって治療はどう変わるのか? 東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科の坂本昌也医師に聞いた。

■副作用が少ない利点

 従来薬(スタチン)では悪玉(LDL)コレステロールを目標値まで下げられない患者がいた。家系的に悪玉コレステロールが高い家族性高コレステロール血症の患者だ。また、スタチンには体の一部の筋肉が溶けて腎臓に障害を引き起こす横紋筋融解症や肝機能障害などの深刻な副作用があり、薬を使えない患者もいた。

「別の薬エゼチミブもありますが、単体では作用がスタチンほど強くないので、悪玉コレステロールのコントロールが不十分な方もいました。そんな中で登場したのが、今回の新薬なのです」

 悪玉コレステロールを血中から取り除く肝臓の働きを低下させる特定のタンパク質を阻害して、悪玉コレステロールを下げる。これが、新薬のメカニズムだ。

 新薬は「注射」で「高価」だが、1カ月に1回打てばよく、従来薬で数値が下がらなかった患者が劇的に下がったケースもある。副作用も少ない。日本では現状、従来薬との併用だけが保険適用だが、将来的には単独使用も可となるかもしれない。

 高コレステロールを指摘された人の中には、「薬を使ってまで悪玉コレステロールを下げなくてはならないのか」と疑問視する人もいるだろう。まずは食生活の改善や運動習慣を身につけることが必要ではと考える人もいる。

「残念ながら悪玉コレステロールは食生活の改善や運動では下がりにくい。しかも、悪玉コレステロールを高いまま放置すると動脈硬化が進行し、血圧も高くなる。それによって脳卒中や心筋梗塞といった冠動脈疾患のリスクが高くなること、そのリスクは薬物治療で下げられることは、複数の研究で明らかになっています」

 治療が遅れて動脈硬化が進むと、不可逆的状態といって健康な状態には戻れない。悪玉コレステロールが高い脂質異常症は、早期治療が非常に重要なのだ。

■「低コレストロールはがんになりやすい」は否定的

 薬物治療否定の理由としてよく言われるのが、「コレステロールが低いとがんになりやすい。高い方が長生きする」といった説だ。

「このコレステロールは悪玉コレステロールを指しているのでしょうが、これらの説は今は否定されています。栄養状態が悪いためにコレステロールが低くなり、結果的に寿命が短くなった例などを含んでいるのだろうとみられているのです」

 むしろ昨年発表された最新報告は、悪玉コレステロールの変動が冠動脈疾患のリスクを高めるという内容だった。悪玉コレステロールは年末年始の暴飲暴食などで高くなりやすく、また夏場は低くなりやすい。この変動を放置すると、そのこと自体が脳卒中や心筋梗塞を起こしやすくするという。

「悪玉コレステロールをいかにコントロールしていくか。今後、より注目が集まるでしょう」

 悪玉コレステロールが高い脂質異常症で命を落とさないようにするには、どうすべきか?

「まずは悪玉コレステロールの変動と血管年齢を知る。そして、家族性高コレステロール血症ではないかを調べる。家系に冠動脈疾患で比較的若い年代で命を落としている人がいれば、家族性高コレステロール症を疑った方がいい」

 これらによって、悪玉コレステロールを下げる薬物治療が必要か、新薬も考えた方がいいのかが判断できる。

 ちなみに、従来薬は副作用が強いが、服用し始めて2週間~1カ月後の血液検査などで問題がないかどうかがわかる。

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