有名病院 この診療科のイチ押し治療

【慢性肝炎】武蔵野赤十字病院・消火器科(東京都武蔵野市)

(提供写真)
B、C型ウイルスは薬で9割以上が消失するが…

 肝炎を起こすウイルスには、主にA~Eの5種類がある。そのうち慢性化する可能性があるのは血液を介して感染するB型とC型だ。

 慢性肝炎になると、肝硬変や肝がんを発症する恐れがある。

 慢性肝炎には自覚症状がほとんどなく、血液検査をしなければ感染の有無は分からない。国内のB型とC型を合わせた感染者(キャリアー)は推計300万人。うち、感染に気づいていないキャリアーは約70万人いるといわれている。

 同院は、都道府県ごとに指定されている「肝疾患診療連携拠点病院」のひとつ(東京都は2施設)。受診者のすべては他院からの紹介患者だ。同科の慢性肝炎の診療について、中西裕之副部長(写真)が言う。

「ここ数年で新薬が次々と登場し、いまはB型、C型ともに9割以上はウイルスを制御もしくは消失させられる時代になりました。しかし、発がんリスクが残る場合もあり、新たにウイルスの薬剤耐性の問題も出てきています。そうした問題も頭に入れながら、個々の患者さんに最適な治療を提供することに努めています」

 慢性肝炎を放置していると、肝臓組織が硬くなる“線維化”が進む。たとえ治療でウイルスが消えても、線維化の程度によっては、その後に発がんする人がいるという。そのリスクを肝生検の結果や腫瘍マーカー、線維化マーカーを使って評価する。

 リスクが高ければ、半年に1回くらいの割合で超音波検査と血液検査でフォローアップする必要がある。その的確な評価ができるのも、肝炎患者が多く集まるハイボリュームセンターとしての経験と実績があるからだ。

■治療による薬剤耐性強化が問題に

 では、「薬剤耐性の問題」とはどういうことか。従来の慢性肝炎の治療は、体の抵抗力を高めるインターフェロン(注射)が主軸だったが、吐き気や発熱などの副作用が出やすく、使えない人も多かった。それが、C型(1b型)では2014年9月に抗ウイルス薬の飲み薬(2剤併用)が保険適用になり、一気に治療の主流になった。現在、この薬に耐性を持つウイルスが増えているのだ。

「この薬は85%の患者さんに有効なのですが、特定の遺伝子に変異がある場合は約40%しか効かないだけでなく、治療に失敗すると耐性ウイルスができてしまう恐れがあるのです。無効症例の多くは耐性に変異していると考えられます」

 そのため、日本肝臓学会では事前に遺伝子検査をすることを推奨してきたが、すべての医療機関がきちんと実施してきたかは不明。保険適用から1年が経過し、耐性ウイルスのキャリアーがさらに増えると考えられている。

「当科は耐性ウイルスを出さないためにも、すべての患者さんにウイルスの遺伝子変異のチェックをしています。その上で、いまは昨年9月に保険適用になった別の2剤合剤と3剤合剤の飲み薬を第1選択薬としています」

■データ
日本赤十字社東京支部設置の病院。1949年開設。
◆スタッフ数=常勤医師17人
◆2015年初診患者数=3395人(うちB型肝炎296人、C型肝炎545人)