医療数字のカラクリ

標準的な治療を保険診療の範囲内で行うのが先決

写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 前回、「(治療の)体験談は怪しい」という話を書きました。体験談を語っている人は、健康食品やサプリメントの会社からお金をもらって頼まれているかもしれないからです。

 ただし、がんのように放っておくと死んでしまうというような場合は少し事情が違うかもしれません。

 放っておけば死んでしまう状況で、「何もせず死を待て」というのには理不尽な面があるからです。「嘘だろうが何だろうが、少しでも良くなる可能性があれば、それにかけてみたい」と思うのは当然のことです。仮にたった一人の体験談であっても、「私はこれでこんなに良くなりました」というのを見せられると、「何にもせずに死んでいくくらいなら、この体験談の治療にかけてみたい」と考えるのは自然です。

 そう考えれば、体験談も重要な情報のひとつであることに異論はありません。

 それでも、体験談というのは、「患者のため」というよりは、「その治療に使う製品を売りたい」ためだけかもしれず、相当注意が必要であることに変わりはありません。そうした治療に高い金をつぎ込むくらいなら、短期間の旅行や、豪華な食事をしたほうがいいというのが私の考え方です。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。