脳を育てれば健康になれる

<第9回>楽観的になることが健康長寿につながる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 これまで「科学的な勉強法」を通じ、脳の効率的な動かし方について考えてきた。今回は「楽観的な脳」と「悲観的な脳」の記憶システムの違いが健康に何をもたらすかを考えてみよう。

「人は見たいものしか見ない、聞きたいことしか聞かない」とはよくいわれることだ。同じように人は「記憶したいことしか記憶しない」といえるかもしれない。
“人はどんなことに注意を向けるのか”を調べる研究としてよく使われる方法がある。被験者に「楽しそうな写真」と「怖い写真」を同時に見せて、そのどちらがより被験者の注意を引かせたかを調べるものだ。

 この実験で分かることは被験者の気質によって記憶されやすいものに違いがあるということ。明るい性格の人は楽しいことに注意が向いて記憶されやすいが、性格の暗い人は悲しいこと、悲惨なものに引かれ、記憶しやすいというわけだ。

 しかも、明るい記憶は人を楽しくさせ、悲惨な記憶は暗くする。つまり、物の見方と記憶とは切っても切れない関係にある。

 その結果、「楽観的な人は、悲観的な人よりも寿命が長い」とする研究は少なくない。

 そのひとつが、同じ生活を続けたと思われる修道女180人の手記を分析した研究だ。「寂しい」「つらい」「悲しい」という言葉を多く使う群と「楽しい」「うれしい」「幸せ」という言葉を多く使う群に分けて、60年後の生存率を調べたところ、前者が34%、後者は90%と楽観的な人の方が断然長かったという。しかも、後者は健康状態も良かった。

 楽観的な人は、ストレスを受けた時に分泌されるホルモンの量が相対的に少ないとの研究もある。米国イリノイ大学の研究チームが45~84歳の男女5100人を11年間追跡した研究では、楽観的な群の血圧や血糖値、コレステロール、BMIなどは悲観的な群より低いと報告されている。

“でも、私は楽観的な生き方などしていない”という人もいるかもしれない。

 しかし、人は記憶を都合良く書き換えようとする=思い込むことで、楽観的な性格を装っていることが少なくない。

 例えば、「オレは他人より給与が多い」「子供は優秀だ」「彼女は美人だ」……。冷静に考えれば必ずしもそうとはいえない場合でも、思い込みが救いになっていることはあるのだろう。

 健康のために朝早く起きて運動するより、「オレは誰よりもモテる」と自分自身に暗示をかけて何事もケセラセラと気楽な気持ちで生活する方がよほど健康にいいということか。