予防から手術まで 糖尿病での失明防ぐ「3つの武器」とは

写真はイメージ
写真はイメージ(提供写真)

 糖尿病患者の約3分の1が網膜症を抱え、その3分の1は視覚障害を起こしている――。これは日本を含め、世界35カ国の疫学データをメタ解析した末にはじき出された数値だ。これが本当なら約950万人の糖尿病患者がいる日本では、316万人が糖尿病網膜症で、105万人に視力障害が出ている計算だ。糖尿病網膜症は成人の日本人の失明原因第2位の恐ろしい病気。身を守る術はないのだろうか?

「もっとも簡単な方法は果物を積極的に取ることです。1日あたり200グラム程度の果物を食べれば、網膜症の発症リスクを下げる可能性があるという研究が発表されています。これはバナナなら1日2本、リンゴなら1個程度の量。これを毎日食べると良いというのです」

 こう言うのは都内の眼科専門医。その研究とは「JDCS」で、1996年にスタートした日本人の2型糖尿病患者を対象とした大規模臨床研究だ。

「その分析の結果、血糖値やBMIが網膜症のリスクであることが確認されたのですが、果物の摂取が網膜症を抑える阻害因子である可能性が明らかになったのです」(前出の眼科専門医)

■食べ過ぎは逆効果

 JDCSの対象となった糖尿病患者を果物摂取量により4分割し比較したところ、最大摂取群(1日あたり平均200グラム)は、最小摂取群より網膜症発症率が40~50%も低かったという。

「なぜ、そうなるのかはハッキリわかっていません。ただ、果物に含まれるビタミンが抗酸化作用により血管の柔軟性を保つことにつながり、網膜内の毛細血管に良い影響を与えたのではないか、と考えられています」(前出の眼科専門医)

 ならば、「毎食後に果物を食べよう」と思う人もいるだろうが、早計だ。

 元東京医科歯科大学眼科教室助教授で、東京都眼科医学会学術委員でもある、「清澤眼科医院」(東京・南砂)の清澤源弘院長が言う。

「果物を取り過ぎると血糖値が上がり、かえって糖尿病が悪化してしまいます。あくまでも果物は食事療法の範囲内で取るべきです。つまり、普段食べている1日の総カロリーを変えずに、果物を食べる必要があります。たとえば、バナナやミカンを食べるぶん、ご飯を減らすといった工夫が必要なのです」

 脂質異常症治療薬の「フェノフィブラート」も、網膜症を抑える薬として注目されている。すでにオーストラリアでは糖尿病網膜症の進展抑制剤として承認されている。そのもとになったのが2つの研究結果だ。

 ひとつは2型糖尿病患者9795人を対象とした無作為比較試験で、この薬を飲んだ群は、そうでなかった群と比べて増殖網膜症を30%減少させた。

 もうひとつはコレステロール降下剤「スタチン」にこの薬を追加した試験(ACCORD Eye)で、40%も糖尿病網膜症の進行を遅らせた。

 不幸にして網膜症が進行して手術が必要となった場合には、「パターンスキャンレーザー」がある。

「糖尿病網膜症が進行して前増殖糖尿病網膜症になると、進行を食い止めるためレーザーで焼いて網膜上の血管新生を抑える汎網膜光凝固が必要となります。今までの装置では広範囲を照射するため、必要な照射数が多くなると3回以上に分割して照射しなければならず、時間もかかりました。新しい装置では、照射回数も患者への負担も少なくて済みます」(都内の眼科専門医)

 さらには、血管新生を阻害するアバスチン、ルセンティス、マクジェンといった注射薬で眼内の浮腫を抑える治療も有効だ。

 いまは早めに治療すれば失明から逃れるチャンスがある時代。気になる人は眼科専門医に相談することだ。

関連記事