脳を育てれば健康になれる

人は思い込みだけで死んでしまう

病は気から…
病は気から…(C)日刊ゲンダイ

 前回、「楽観的な脳が健康長寿を実現する」ことを紹介したが、逆に「悲観的な脳は不健康短命を実現する」ことになるのだろうか?

 その例として挙げられるのが、レベック・フェルカーという学者の報告だ。米国のフラミンガム心臓研究所が1948年にスタートした大規模調査データをもとにした報告で、「自分は心臓病にかかりやすい」と信じている女性の死亡率はそうでない女性の4倍に上ったという。

 これは、オックスフォード大学感情精神科学センターのエレーヌ・フォックス教授の著作「脳科学は人格を変えられるか?」(文芸春秋)に記されている。

 この本のなかでは「末期の肝臓がんで余命数カ月」と宣告された患者が気落ちした結果、体力を失い、宣告された余命すらまっとうできずに亡くなった例も紹介している。

 その後、肝臓がんは誤診だったことが判明。「自分はがんで死ぬ」という思い込みだけで死んでしまったことがわかったという。

 これは特異な例に聞こえるかもしれない。しかし、「思い込みが患者を不健康に導く」ことは医療関係者なら経験することだ。弘邦医院(東京・葛西)の林雅之院長が言う。

「まったく効果のない薬でも患者さんの思い込みによって副作用が出てしまう効果をノーシーボ効果と言います。実際に薬の副作用を心配し過ぎるあまり、薬の悪影響が強く出てしまう患者さんに出会うことはたまにあります」

 林院長が記憶に残っているのはある高齢の気管支炎患者だ。痰切りの薬と一緒に気管支拡張剤を処方した際、「気管支拡張剤を飲むと副作用で頭痛がすることがあります」と説明したが、その後この患者は「痰切りの薬を飲むたびに頭痛がする」と訴えたという。調べてみると患者が「気管支拡張剤でなく、痰切りの薬で頭痛という副作用が出るケースがある」と聞き間違いをしていたことがわかったという。

 薬剤師の間では「ノーシーボ効果」は有名だ。例えば、片頭痛やうつ病の薬とプラセボ(偽薬)とを比較した研究では、どちらも、腹痛・かゆみ・吐き気などの主観的な副作用症状が表れたことが複数の研究論文に記されている。

「その意味で、“病は気から”は本当のことです。ただし、患者の思い込みで患者の臓器そのものが変化したかどうかはわかりません。少なくとも主観的に不健康を感じることから、可能性は否定できません」(首都圏の薬剤師)

 同じ治療をしても、楽観的な人と悲観的な人とでは身体そのものが変化する可能性があり、治療効果に差が出ることを、患者は知っておいた方がいい。