世界中で警告続々 「糖質制限ダイエット」は本当に安全か

やはり慎重になるべきか
やはり慎重になるべきか(C)日刊ゲンダイ

 やっぱり危険なのではないか――。今月6日、糖質制限ダイエットの第一人者だったノンフィクションライター・桐山秀樹氏が心不全のため62歳で急逝した。この訃報を受け、侃々諤々の議論が巻き起こっている。糖質制限は、本当に体に悪影響はないのか。

 近年、広く知られている糖質制限ダイエットは、米、パン、麺類、芋などの炭水化物、砂糖を使った菓子類など、糖質を含むものは一切食べず、肉などのタンパク質や野菜はいくら食べてもOKという方法だ。桐山氏は、糖尿病と診断された2010年から糖質制限ダイエットを始め、87キロあった体重を3週間で67キロまで落とすことに成功。以後、糖質制限ダイエットを実践してきた。

 もともと、桐山氏には糖尿病による基礎疾患があり、心不全で亡くなったことと糖質制限ダイエットの因果関係はないといわれている。しかし、第一人者の突然の訃報なだけに不安な声が上がるのも無理はない。

 そもそも、糖質制限ダイエットは専門家の間でも賛否両論があり、世界中で“警告”が出されているのも事実だ。

 米国のハーバード大学は、「糖質制限食を続けると心筋梗塞や脳卒中の発症率が高まる」と、12年に英医学誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」で発表している。スウェーデンの30~49歳の女性4万3396人を対象に食生活を調査し、約16年間、心筋梗塞や脳卒中などの発症を追跡したところ、「低炭水化物・高タンパク質」のグループは、そうでないグループに比べて発症リスクが最大1.6倍高まったという。

 ハーバード大医学部系列の医療センター等による別の報告もある。動脈硬化症モデルマウスに12週間、同カロリーの「標準食」「脂肪の多い西洋食」「低炭水化物で高タンパク質」の3種類の食事を与えたところ、「低炭水化物」は、「標準食」と比べてアテローム性動脈硬化症が15・3%多く発生。また、低炭水化物食のマウスはダメージを受けた血管の修復能力に悪影響があることも分かった。

■脳梗塞や心筋梗塞のリスクも

 東邦大学医療センター佐倉病院循環器科の東丸貴信教授は言う。

「アテローム性動脈硬化症は血管内壁にコレステロールなどが沈着して起こります。過度に炭水化物を減らしてタンパク質や脂質を多く摂取すると、動脈硬化巣が炎症などでもろくなる可能性があり、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まっていくのです」

 日本でも、13年に国立国際医療研究センター病院の糖尿病内分泌代謝科の能登洋医長(現・聖路加国際病院内分泌代謝科医長)の研究で、「糖質制限食を5年以上続けると死亡率が高まる」と報告されている。30歳以上の約27万人を対象に5~26年間追跡した調査を分析したところ、糖質を1日の総摂取エネルギーの30~40%にした低糖質グループは、60~70%にした高糖質グループに比べて死亡率が31%アップすることが分かった。

 また、アメリカ国立衛生研究所が行った1万人を対象にした研究によると、厳格な糖質コントロールを行って血糖値を下げたグループは、標準レベルの血糖コントロールを行ったグループに比べて21%も死亡率が高かったという。

 糖尿病専門医で「しんクリニック」の辛浩基院長は言う。

「厳格な糖質制限が安全なのかどうかについてはまだはっきりしたエビデンスがありません。しかし、それだけを長期にわたって厳格に実践してしまうと、代謝のバランスが崩れたり、腎臓に負担がかかるなどして、悪影響が出る可能性があると考えられます。糖質制限は糖尿病の治療法のひとつではありますが、あくまでも補助的なもの。血圧やコレステロールの管理などと合わせ、トータルで行うべきなのです」

 糖質制限ダイエットを実践した日本のある医師は、アッという間に15キロ痩せたというが、すぐに病院に駆け込むほどの体調不良に見舞われている。そもそも、ダイエットで落としてもいい体重は、1カ月で体重の5%といわれる。急激に体重が落ちる糖質制限ダイエットは、慎重になったほうがよさそうだ。

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