健康は住まいがつくる

高層階に住む程生存率が低下する可能性

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 高断熱住宅に住むと、心・脳血管障害などの有病率が減る――。そんな調査データをこれまでいくつか取り上げてきた。都市部では、その利便性や投資のためマンションの高層階に住む高齢者も少なくない。その場合、生活習慣病などで心・脳血管障害のリスクを持つ人は、住む階層によって健康影響はないのか。

 先月、カナダの病院の医師らが「マンションの居住階別の心停止後生存率に差があった」という研究結果を医学誌「CMAJ」(オンライン版)に報告している。研究の背景には、近年、カナダの都市部では高齢者の高層階入居率が上昇していて、高層階に住む人の40%以上が65歳以上の高齢者ともいわれる状況がある。

 医師らが解析したのは、トロント市内の病院外での心肺停止例(2007年1月~12年12月)7842件のデータ。高層階と低層階で、心停止後の生存退院率の違いなどを調べている。

 3階より下に住む低層階での心停止5998件(76.5%)と、3階以上の高層階で起きた1844件で比較したところ、生存退院率は低層階住居者の方が有意に良好だったという。

 さらに、16階以上の高層階になると生存退院率は0.9%まで低下し、25階以上になると生存者はゼロという結果が示されている。

■心臓や脳卒中などの持病がある人は要注意

 この研究で指摘されているのは、救急出動要請があって救急隊がマンションに到着しても、実際に高層階の心停止患者にたどり着くまでの時間がこれまであまり問題にされていなかった点だ。従来の研究は、心肺蘇生までの時間を救急隊の現場到着時刻を用いて評価することが多かったという。

 心停止から心肺蘇生(電気ショックなど)が1分遅れるごとに、救命率は10%ずつ低下するといわれる。国内の119番通報から現場到着までの所要時間は、全国平均で8.5分(2013年調べ)。そこから救急隊がマンション高層階まで向かう時間を考えると、たとえ心停止直後に通報しても、救命率は予想以上に低くなることも考えなければならない。

 カナダの研究結果と同じように、日本でも居住が高層階になればなるほど心停止患者の生存率が低下する可能性がある。

 高層階の健康影響については、国内では1990年代に旧厚生省がまとめた「厚生省心身障害研究」の中に「高層階になるほど妊婦の流産割合が増える」という研究報告がある。これは、外出しにくくなる、運動不足など、ストレスの影響が指摘されている。

 セレブ感のある“高層階の居住”はうらやましいが、必ずしもいいことずくめではないことを覚えておくことだ。居住階は、年齢や体の状態などに応じた健康影響も考えて決めた方がよさそうだ。