がん保険 本当に必要ですか

<1>生存率アップの弊害?がん患者が抱える3つの経済リスク

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「がん保険に入ろうかどうか悩んでいるんだけど……」――。こんな相談を持ちかけられたら、あなたはどう答えますか。10年前なら、「保険料を損するだけだから、おやめなさい」と迷わず言い切ることができました。

 ところが、この10年間でがん医療が急速に進歩した結果、生存率が目に見えて上がってきました。進行がんと診断されても、治療を続けながら、数年ないし10年以上も生存できる人が増え続けています。根治は無理でも治療によって生き永らえるチャンスは増えているのです。

■数万円の医療費を何カ月も何年も……

 しかし、それにともない新たな「経済リスク」が生じます。

 第1に「医療費」の問題です。生存期間が短ければ(早く死んでしまえば)、医療費はさほどかかりません。ところが、がんと何年も共生し続けるとなると、話は違ってきます。1カ月の医療費は数万円以内で済むとしても、それが何カ月も何年も続くのです。

 第2のリスクは「収入減」です。これは現役世代に特有のリスクです。がんを理由に会社を退職する、いわゆる「がん離職」が増えています。勤め続けられても、休みが増え、配置換えなどで収入が減りますし、出世も諦めなければなりません。年金をもらえる年齢に達していないため、たちまち死活問題になってしまうこともあります。

 第3に「健康保険外の治療」を受けたくなります。先進医療や、まだ日本では承認されていない薬や治療法を受けるためには、数百万円のお金が必要になります。

 むろん、治療を受けても、がんが消滅するかどうかは分かりません。しかし、じっと死を待つよりは打って出ようと思う人も大勢います。また、こういう人は、サプリメントや健康食品への出費がかさみます。がん患者の多くは、ビタミンやミネラルなど体によさそうなものを積極的に取ろうとします。「免疫力を高め、少しでも長く生きたい」という願いがそうさせるのです。効くという根拠があるかどうかは別の話です。

 以上を総合すると、とくに現役世代では、がんにかかると経済損失が数百万円を超える可能性が高いということです。

 一方、通院給付金や収入保障型など、長期の闘病生活を支えるためのがん保険が各社から発売されるようになりました。そのため、とくに現役世代にとってがん保険は無用とは言いきれなくなってきたのです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。