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【海外渡航の病気対策】東京医科大学病院・渡航者医療センター(東京都新宿区)

東京医科歯科大学病院・渡航者医療センター センター長・濱田篤郎教授
東京医科歯科大学病院・渡航者医療センター センター長・濱田篤郎教授(提供写真)
21種類の国内外ワクチンを常備した大学病院初のトラベルクリニック

「SARS」「MERS」「エボラ出血熱」「デング熱」「ジカ熱」「マラリア」など、海外では、日本では普段みられない感染症が流行している。

 そうした海外渡航に伴う健康問題の予防対策に重点をおいた医療(渡航医学)を提供する専門外来を「トラベルクリニック」と呼ぶ。

■欧米では一般的な健康面の危機管理

 同センターは、2010年秋に日本の大学病院で初めて開設されたトラベルクリニックだ。現在、日本人の海外渡航者は年間1700万人にも上る。センター長の濱田篤郎教授が言う。

「欧米では渡航前にトラベルクリニックにかかることが一般的になっています。しかし、日本の場合は海外に社員を派遣している企業には定着していますが、一般旅行者では健康面の危機管理に対する意識がまだまだ低いのが現状です」

 2000年にネパールの診療所の医師が日本人渡航者の受診が多いので調べたところ、「A型肝炎」と「腸チフス」のワクチン接種をしていた渡航者は欧米人では90%だったが、日本人はたったの5%しかいなかった。同様な調査結果を示す論文が多く出されているという。

「ワクチンの予防接種は、国内承認ワクチン(13種)だけでなく、輸入ワクチン(8種)も常備しています。加えて、当センターは黄熱ワクチンの接種ができる施設になっているので、ワンストップ(1カ所)ですべてのワクチン接種に対応できるのが特徴です」

 “黄熱”は南米やアフリカで流行している蚊が媒介する感染症で、発熱、頭痛、筋肉痛、吐き気などの症状が表れる。

 重症化すると3人に1人が死亡する怖い病気だ。

 黄熱ワクチンは主に検疫所や検疫衛生協会で接種が行われていて、医療機関で受けられるのは東京都内では同センターを含め2施設だけ。黄熱ワクチンは他のワクチンとの順番を考慮して接種する必要があるので、1施設で計画的に接種できるのであれば安心だ。

 渡航先の流行状況や医療機関の情報提供、現地での対策などを指導するのもトラベルクリニックの大切な役割になる。

「デング熱やジカ熱はワクチンがないので、現地で予防するしかありません。日本では、蚊に刺されるのは夜というイメージがありますが、ウイルスをもつネッタイシマカは昼間に人を刺します。虫よけ薬を使うタイミングなどもきちんと指導します」

■メンタルサポートや登山にも対応

 現地での持病の管理指導や英文診断書の作成、旅行保険などでまかなう医療費申請なども教えてくれる。

 同センターには“特殊外来”も設けられている。登山や高地観光をする人には「登山者・高山病外来」が対応。企業の海外赴任者のメンタル面をサポートするのは「レジリエンス外来」だ。

「海外に長期滞在していると、環境変化のストレスなどから3割くらいの人が神経症になるといわれます。それを回避するために心理テストなどを行いながら個別指導します」

 今夏はリオ五輪もあるので、海外旅行を計画している人も多いはず。慣れない渡航で健康面に不安があるならトラベルクリニックに相談しよう。

 創立100周年を迎えた東京医科大学の本院。
◆スタッフ数=常勤医師2人(非常勤5人)
◆年間初診患者数=約2000人
◆受診渡航者の割合=ビジネス関係7割、旅行者2割、留学生1割