がん保険 本当に必要ですか

<4>「がん離職」への備え

(C)日刊ゲンダイ

 がん医療の進歩と、DPCの導入の結果、抗がん剤治療などのために長期の通院生活を強いられる患者が増えています。しかし、現役世代にとって、闘病と仕事を両立するのは決して容易なことではありません。その結果、「がん離職」という新たな社会問題が生じているのです。

 例えば東京都が2014年に発表した調査結果によれば、進行がん(Ⅲ期・Ⅳ期)の人の2~3割が退職に至っています(表1)。また、非正規社員やパート・アルバイト、若い人ほど、離職率が高いという結果です。治療費や収入減など、経済的困難を訴えている人の割合は、表2のようになっています。やはり若い人ほど割合が高くなる傾向が読み取れます。

■「休業補償」は働けなくなった時の頼り

 病気で働けなくなったときに頼りになるのが、健康保険の休業補償(傷病手当金)です。標準報酬日額の3分の2に相当する金額を、最長1年半にわたってもらえる制度です。しかも、一定の条件さえ満たしていれば、会社を辞めてももらい続けることができます。金額は、月給が30万円の人で約6700円/日、40万円なら約9000円/日です。十分とはいえませんが、生活費の足しになります。

 がん保険でも、年金(収入保障金)を支給する商品が出てきています。年額120万円(月額10万円、1日当たり約3300円)を最長5年間支払う、というような内容です。傷病手当金よりも保障期間が長いので、長期の闘病生活を強いられる患者にとって、助けになるでしょう。

 ただし、がん離職のリスクが最も高い30代以下の非正規の人たちが加入するべきか、判断は難しいところです。もともと少ない収入から、月々の保険料を捻出するのは容易なことではありません。若いうちはがんになる確率が低いので、保険には入らないというのも有力な選択肢のひとつです。

 ちなみに40代までは、女性のほうが男性よりもがんになりやすい傾向にあります。乳がん・子宮がんが多いためです。これらのがんには抗がん剤が比較的よく効くため、長期療養を続けられる人も少なくありません。乳がんの年間罹患率は、30代で1000人当たり0・5人程度、40代では1~2人程度となっています。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。