どうなる! 日本の医療

患者本位になれば 日本には「コンビニクリニック」が必要だ

駅ビルにクリニックがあると便利
駅ビルにクリニックがあると便利(C)日刊ゲンダイ

 4月から、全国250の大病院では紹介状なしの初診患者は新たに5000円の別途窓口負担が必要になるのをご存じだろうか? 大病院が専門的疾病治療に専念できるよう、これまで夜間救急に押しかけてきた軽症患者を締め出そうというわけだ。

 その受け皿として注目されているのが、「コンビニクリニック」だ。米国ではすでに似た形態の診療所があり、「リテールクリニック」と呼ばれている。わずか15年間に1800カ所に広がっているという。JR東日本管内の「立川」、「新宿」(4月から)、「川崎」などの各駅の「駅ナカ」で週末や夜遅い時間に診療する「ナビタスクリニック」の久住英二理事長が言う。

「これら診療所の患者の特徴は、①鉄道利用の都市生活者、②働き盛りの男女、③共働きで幼児を抱える若夫婦などです。本来は会社を休んで病院にいけばいいのですが、そんな余裕もない。パートの主婦は、子供や自分の病気で休んで医者に行けば、即『あなたの代わりはいくらでもいます』と職を失いかねない。そんなギリギリの生活をしている庶民のための夜の駆け込み病院になっています」

■求められているのはありふれた病気治療

 クリニック開院のきっかけは、あるアルバイト学生との会話だったという。

「“本当は体調が悪くて医者に診てもらいたいのだけれど、その暇がない”というのです。そこで、治療を受ける時間が取りづらい人たちのために新宿駅西口近くの雑居ビルで実験的に夜9時まで診療を行ったところ、相当数の患者需要があるということが分かりました。そのとき、多角化を進めるJR東日本さんからお声がかかって、今の形になったのです」

 同院は内科と小児科がメーンで、営業時間は朝9時から昼間の休診時間を除いて夜9時まで。電話やネットでの予約が必要だ。それでも、冬のインフルエンザ期間中は3医療機関で1日1000人からの患者が押しかけるという。そのピーク時は午後6~8時前後だ。

「それだけ困っている人が多いということです。その意味では日本の医療機関は患者本位でなく、医療機関に働く人本位で運営され過ぎているのではないでしょうか。昔と違って、サラリーマンの働き方はさまざま違ってきているのに、診察時間はほとんど変わっていません。しかも、患者さんの9割がごくありふれた病気なのに、病院は専門医が多くて難しい病気ばかりを診たがります。これでは、医療難民が増えるのは当たり前です」

 米国では、簡単な病気は専門の看護師に初期診療を任せるという制度がある。日本でもそのための看護大学院教育がなされているが、看護師の診療を解禁する兆しはない。

「患者さんなくして医師や看護師は存在しません。患者さんのことを考えれば、コンビニクリニックはもっと必要とされるはずです」

 いずれ、すべての駅ビルにコンビニクリニックが置かれ、深夜まで患者があふれかえる時代がくるのかもしれない。

村吉健

村吉健

地方紙新聞社記者を経てフリーに転身。取材を通じて永田町・霞が関に厚い人脈を築く。当初は主に政治分野の取材が多かったが歴代厚労相取材などを経て、医療分野にも造詣を深める。医療では個々の病気治療法や病院取材も数多く執筆しているが、それ以上に今の現代日本の医療制度問題や医療システム内の問題点などにも鋭く切り込む。現在、夕刊紙、週刊誌、月刊誌などで活躍中。