Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

データの読み解き方 がんの生存率をうのみにしてはいけない

注目はⅠ期/Ⅳ期比 
注目はⅠ期/Ⅳ期比 (C)日刊ゲンダイ
胃がんは病院によって27ポイントの差

 国立がん研究センターなどのグループが、1999年から2002年にがんと診断された約3万5000人を10年間追跡。すべてのがんの10年生存率が初めて58.2%と判明しました。

 参加したのは全国32のがん専門病院で、一定の条件を満たした16病院が調査対象。集計結果は、「全国がん(成人病)センター協議会」のHPでチェックできますから、今回はデータの読み解き方を紹介します。

 ひとつは、がんの部位ごとに5年生存率と10年生存率を比較する方法。たとえば、胃がんと大腸がんの5年生存率はそれぞれ70.4%、73.4%で、10年生存率は69.0%、69.8%。5年の歳月で生存率が2ポイント前後下がっていますが、その後も横ばい傾向なことから、「がん治療や経過観察は5年が目安」が裏付けられた格好です。このようながんは、5年間再発がなければほぼ完治といえます。

 一方、肝臓がんは早期に手術できた症例でも、5年生存率が50.7%。10年後には29.8%に低下。年を経るごとにデータは右肩下がりで、思うような治療成果が得られないことが分かります。がんごとに5年と10年の数値を比較すれば、再発しやすいがんかどうかの手掛かりになるのです。

 もうひとつは、施設ごとに示された5年生存率です。ポイントは、生存率の良し悪しをうのみにしてはいけないこと。

 たとえば、胃がんの5年生存率で比較すると、最も成績が良かったのは石川県立中央病院の87.8%。冒頭で触れた全体の5年生存率を20ポイント近く上回っています。これだけ見ると、素晴らしい結果ですが、データの中身を詳しくチェックしてみましょう。

■注目はⅠ期/Ⅳ期比

 公表されたデータは、各施設のがんの部位ごとの5年生存率のほかに、①ステージⅠ~Ⅳの患者さんがどれくらいの割合でいるか②男女比③Ⅰ期/Ⅳ期比④手術率などが示されています。注目は特に③です。

 ③のⅠ期/Ⅳ期比は、ステージⅣの患者さんに比べて、ステージⅠの患者さんがどの程度いるかを示す割合。大まかに末期と早期の患者さんの比率が分かります。数値が大きいほど、早期(ステージⅠ)の患者さんが多く、数値が小さいほど末期(ステージⅣ)の患者さんが多くなります。

 石川県立中央病院のⅠ期/Ⅳ期比は8.79。今回、治療を受けた方は圧倒的に早期の方が多いのです。5年生存率と10年生存率で比較した通り、胃がんは早期に治療するほど結果が良くなりやすいことから、早期の方の多さが数値を押し上げたと解釈できます。

 2番目に良かった大阪府立成人病センター(84.3%)は、Ⅰ期/Ⅳ期比が7.47。早期と末期の割合も石川に次いで高く、早期の方の多さが影響したのでしょう。

 一方、胃がんの5年生存率の下位2施設は青森県立中央病院(60.9%)と名古屋医療センター(62.7%)で、Ⅰ期/Ⅳ期比はそれぞれ1.99と2.32。上位2施設に比べて小さく、末期の患者さんが多く、それが全体的な5年生存率の低さにつながったと考えられます。しかし、Ⅰ期の方に限ってみれば、どちらも90%超。早期の方の治療成績は決して悪くないのです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。