がん保険 本当に必要ですか

<5>先進医療特約は慎重に

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 がん患者の中には、「先進医療」を希望する人がいます。しかし、それ自体には健康保険が利きません。付随する検査や入院には健康保険が使えるので、先進医療は「事実上の混合診療」です。

 先進医療は、まだ効果が十分に確かめられていない新しい検査法や治療法です。国が指定し、2014年6月時点で95種類が選ばれています。

 がんに関する先進医療としては、「重粒子線」と「陽子線」が有名です。前者は光の速度の70%まで加速した炭素原子をがんに照射して破壊するというもの。後者は同じく高速の陽子を照射するものです。

 治療は、週5日照射し、それを連続2カ月ほど続けます。料金は病院によって多少異なりますが、2014年のデータでは陽子線の平均が約264万円、重粒子線が約309万円でした。これは全額患者負担になります。通院での治療も可能ですが、入院と通院を併用する患者も多く、平均入院日数は12~14日ほどとなっています。

 これらの治療を受ける患者数は、以前は限られていました。ところがここ数年で人気が高まり、患者が増え続けています。〈表〉は2010年から2014年までに治療を受けた患者数です。この5年間で、実に2・3倍以上も伸びています。これには、がん保険の先進医療特約も貢献しているはずです。経済的余裕のある人以外では、先進医療特約の有無が、治療を受けられる条件のひとつになりつつあるのです。

 がん保険の先進医療特約は、保障額が2000万円、あるいは無制限となっています。しかし、がんの治療でめぼしいものは、前述した2つの治療法しかありません。これらの治療を何度も受けるようなケースは、まず考えられません。実際に使えるのは、せいぜい1回分の約300万円というところです。

 さらに昨年、日本放射線治療学会が、前立腺がん・非小細胞肺がん・肝細胞がんで、重粒子線と既存の放射線治療の効果を比較したところ、ほとんど違いが見られなかったことを報告しています。他のがんでは違いがあるかもしれませんが、まだ判定結果は出ていません。実は陽子線でも、まだ効果のほどは確定していません。

 先進医療を受けるべきか、先進医療特約を付けるべきかは、慎重に考えなければいけません。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。