医療数字のカラクリ

動物実験の結果を人間に当てはめてもいいのか?

動物実験の結果を安易に信用してはいけない

 自分の治療を決定するための情報は、自分によく似た患者で確認されます。ところが、案外そういう視点を意識せずに、自分とは似ても似つかぬ患者についてのデータを自分に当てはめようとしていることが多いのではないでしょうか。

 たとえば、ネズミの実験で「ある物質Aを投与してがんの発生が抑制された」との医療情報があったとしましょう。そんな情報を目にすると「物質Aを毎日取らなくちゃ」となるかもしれません。しかし、医療はそう簡単ではありません。自分はネズミではないわけで、ネズミでの効果がそのまま人間に当てはまるか否かは分からないのです。

「同じ哺乳類なのだから」というような考え方ができる半面、「ネズミと人では違いすぎる」というのももっともな考え方でしょう。

 ただ、ネズミの実験と人間の実験と両方の情報があるのなら、人間の実験のデータを利用したいということに異論がある人はいないでしょう。

 その意味では、「ネズミの実験で終了して、人間での実験を省略する」やり方は問題です。自分の治療に役立てるためには、ネズミの実験ではあまりに自分との距離が遠すぎて、ちょっと使えそうにない。せめて人間の実験でないと使えない。まずはそこからです。

 これから、医療に関する情報を見るときには、まずその情報が人間を対象にした研究結果であるかどうかを確認しましょう。

 動物のデータをあたかも人間に使えるかのように書いている記事が多いことに驚かれるかもしれません。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。