天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

降圧剤は自己血圧測定をセットで考える

順天堂大医学部の天野篤教授
順天堂大医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 心臓病予防のためには、血圧をしっかり下げておくことも大切です。

 血圧が高いまま放置していると、動脈硬化が進んだり、心臓の負担が増えてトラブルを起こしやすくなっていきます。最近ニュースでよく耳にする大動脈瘤破裂、急性大動脈解離といった突然死を招くような心臓病のリスクも高まります。発症して意識を失うと、場所や状況によっては周囲を危険に巻き込むこともあるので、自分だけの問題では済まなくなります。

 自宅で血圧を計測したときに「145/95mmHg」を超えているようなら、降圧剤の服用を決意して、しっかり血圧をコントロールしたほうがいいでしょう。

 降圧剤とうまく付き合っていくために重要なポイントは、「定期的に自分で血圧を測定しながら薬を服用する」ということです。降圧剤には、「体を選ばない」という特徴があります。血圧が高い人だろうが低い人だろうが、服用すれば血圧を下げてしまいます。だからこそ、「血圧が下がり過ぎていないか」をきちんと点検するための自己血圧測定が非常に重要になります。

 血圧が下がり過ぎてしまうと、めまいやふらつきが起こって転倒してしまったり、ひどい場合は失神や脳の機能不全を招くこともあるので注意が必要です。私が勤務している病院では、医師に緊急呼び出しがかかるケースの半数が、血圧が下がり過ぎてしまった患者さんによるものです。そうした患者さんは、降圧剤を飲んで体調が悪くなって病院にやってきますが、到着した途端にホッとしてバタンと倒れてしまうのです。

■「下がり過ぎ」に注意

 降圧剤を服用する人は、毎日、起床時と就寝前に自分で血圧を測って状態を確認する。さらに、薬を飲んで体調に変化があったときにも血圧を測定し、数値に異常があるようなら医師に相談して薬の量を減らす対処をしなければなりません。血圧の状態が把握できていなければ、そうした処置が遅れてしまいます。

 また、降圧剤を処方されたときに渡される薬剤情報提供文書などに「効き過ぎるとどんな副作用が起こるか」について記載されています。患者さんは、それをしっかり理解しておくことも大切です。クリニックなどで開業医に降圧剤を処方してもらっていてよく分からない場合は、薬を飲んで体調が悪くなったらいったん服用を中止し、医師に相談してください。

 自己血圧測定と並行して、定期的に血液検査を受けることも忘れてはいけません。降圧剤の副作用が起こっていないかをチェックするためです。

 現在、日本では大きく分けて6種類の降圧剤が処方されています。それぞれ作用機序が異なり、その薬が患者さんに合わないケースも出てきます。副作用も、動悸、頭痛、むくみ、便秘、息切れ、けいれん、めまい、筋肉痛などさまざまです。中には、命の危険がある重篤なものもあるので、血液検査によるチェックは欠かせません。

 投薬を行う際、患者さんの身を守るために最も簡単で効果的な方法が血液検査です。肝機能障害を起こしてないか、腎臓に悪影響を与えていないかどうか、アレルギーを起こしていないか、貧血を起こしていないかなど、血液検査のデータを見れば80%近くは分かります。降圧剤を服用している人は、最低でも2カ月に1回は薬を処方してもらっている病院で血液検査を受けるべきです。

 薬を飲んでも別に体調は悪くならないから、血液検査は受けないという選択はやめましょう。体調に変化が表れていなくても、体の中で副作用を起こす要因がないかどうか確認することが大切なのです。毎年、お正月に初詣に出向き、お札やお守りを買っている人はたくさんいらっしゃるでしょう。血液検査はそれと同じようなものです。病院で薬を処方してもらっている人にとっては、採血表がかなり安全なお札になるのです。

 薬だけを処方して、採血検査もしない医師は、少し疑ってかかったほうがいいでしょう。トラブルが起こったときに信頼することができません。

 降圧剤で血圧をコントロールする人は、自己血圧測定と定期的な血液検査をセットで考える。それが、降圧剤とうまく付き合っていく方法です。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。