Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【松方弘樹さんのケース】脳リンパ腫、化学療法が効きやすい

松方弘樹さん
松方弘樹さん(C)日刊ゲンダイ
腕の違和感やしびれが典型的症状

 ビックリされた方も多いでしょう。巨大マグロを釣り上げる豪快なイメージが印象的な俳優・松方弘樹さん(73)が脳腫瘍の一種の「脳リンパ腫」で都内の病院に入院しているそうです。

 先月、体がしびれたり、腕に力が入らなかったりする違和感から医療機関を受診。所属事務所の発表などによると、「脳腫瘍らしきものが見つかったため、詳しい検査と長期療養が必要」と伝えられています。

 そのため、予定されていた6月までのコンサートや舞台を降板。テレビ収録などもキャンセルする見通しで、事務所社長が「(腫瘍らしきものがある場所は)メスを入れることが難しい場所」としたこともあり、病状は重いのではないかと報じられました。

 その後、テレビ番組の取材に応じた事務所関係者の話によると、腕の違和感やしびれなどはあるものの、トイレには自分で歩いていき、会話も普通にできるとのこと。好物のビフテキサンドを取り寄せているそうで、元気な様子が伝えられたのは何よりでしょう。

 リンパ球は、ウイルスなどから身を守る免疫を担当する血液細胞で、いくつかのタイプがあります。そのうちのBリンパ球が悪性になって、脳の中で増殖するのが「脳リンパ腫」です。

 60代以上の高齢者に多く、脳腫瘍に占める割合は3%ほどですが、最近は増加傾向。脳は、神経細胞とそれをつなぎ留める神経膠細胞からできていて、一般に語られる脳腫瘍は神経膠細胞から発生するタイプを指すことが多いですが、それとは異なるタイプです。

 松方さんが違和感を覚えた腕のしびれや麻痺などは、「脳リンパ腫」としては典型的な症状で、ほかに認知症のような症状が表れることも少なくありません。

 CTやMRIなどの画像検査で異常が見つかった場合、異常な組織の一部を採取して性質を調べる生検を行います。体の別の部分に発生したリンパ腫が脳に転移した可能性もあるため、リンパ球が生まれる骨髄に針を刺して全身のリンパ球に異常がないか調べることも重要です。

 一般に異常なリンパ球は血管の周りに集まり、脳の深くに染み込むように広がります。脳の深い部分にできやすいのはそのためで、血管を通じて複数の場所にできることもまれではありません。手術で腫瘍を取り切ることが難しく、放射線や抗がん剤を組み合わせて治療するケースがほとんどです。

 この病気の根本はリンパ腫で血液の病気。抗がん剤が効きやすく、治療は、抗がん剤をしてから全脳照射を行うのが一般的。実は、脳の広い範囲に放射線を照射すると、治ることもありますが、放射線の影響で脳が萎縮して認知症になりやすいのです。その影響を避けるため、全脳照射する放射線の量はなるべく少なくします。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。