寝ても抜けない“酒疲れ”は「ビタミンB1不足」に原因あり

しっかり寝ても解消できない
しっかり寝ても解消できない(C)日刊ゲンダイ

 3~4月は「歓送迎会」や「お花見」など、お酒抜きには過ごせない季節だ。中にはお酒を飲むたびに「なんだか疲れた」と感じる人もいるだろう。問題はこうした「酒疲れ」の原因の中に、風邪などの病気や肉体的疲れ、ストレス以外に、「栄養不足」が隠れているケースがあることだ。

 吉田直樹さん(46)は先月末の会社の歓送迎会で痛飲して以降、体がだるくて仕方がない。しっかり寝ているのに体に力が入らず、食欲もない。イライラが続き、心なしか手足のむくみもある。

「飲み会続きで膵臓の機能が衰えたのかも」と思ったが、左側の背中や腰が張ったり、脂っこい食事の後で左側の脇腹や肩甲骨が痛むなど、膵臓病の典型症状はない。不審に思い自宅近くのクリニックで診てもらったところ、「ビタミンB1欠乏症」と診断された。

 弘邦医院(東京・葛西)の林雅之院長が言う。

「ビタミンB1には糖質をエネルギーに変え、脳や神経を正常に保つ働きがあります。これが不足するとエネルギーが足りなくなって全身が疲れやすくなるうえ、神経が正しく機能せずイライラしたり、足がむくんだり、動悸など心臓に問題が生じたりして、最悪、亡くなることもあります」

 かつての日本ではビタミンB1欠乏症は「かっけ」と呼ばれ、結核と並ぶ2大国民病とされてきた。玄米を精製してできた白米を食べるようになった江戸時代以降に患者数が増加。「かっけ」による心不全などで、大正時代までに毎年数万人が命を落とした恐ろしい病気だ。

 栄養状態が格段に上がった現代では、豚肉、ウナギ、イクラ、玄米などビタミンB1が豊富な食品を普通に食べていれば問題ない。しかし、偏食の人、ダイエットで食事制限している人、胃を切除している人、小腸や胃での栄養吸収を阻害する薬を飲んでいる人などはビタミンB1不足に陥る可能性がある。

■胃を切除、ダイエット中の人は要注意

「これまで、ビタミンB1は小腸で吸収されると考えられていましたが、最近の研究では胃の壁細胞で取り込まれることが分かってきました。そのため胃を切除した人はもちろん、一部の降圧剤など胃や腸での栄養吸収を阻害する薬は注意が必要です」(林院長)

 しかし、ビタミンB1欠乏症を警戒しなければならないのは、なんといっても大量にお酒を飲む人だ。

「お酒を体内で分解するには、たくさんのビタミンB1が必要になります。その影響で、食事で炭水化物をとっても、ビタミンB1不足で必要なエネルギーを作れなくなり、疲れを感じるというわけです」(林院長)

 そもそもビタミンB1は水溶性であるため、ビールなどを飲むと尿と一緒に排出されやすい。しかも、お酒を飲むと消化器の働きが低下してビタミンB1の吸収が悪くなる。つまみをほとんど食べない人はさらに拍車がかかるという。

 さらに恐ろしいのはビタミンB1欠乏症が進行すると、認知症と同じような症状を起こすことだ。

「これを『ウェルニッケ脳症』といいます。脳内の神経障害により、まっすぐ歩けなくなったり、眼振が起きたり、物忘れをするようになります。中には本人が意識していないにもかかわらず、作り話をするようになるケースも。見た目は病気と分からないから、人間関係を損なう原因にもなります」(林院長)

 むろん、ビタミンが足りないからといって、すぐに発症するわけではない。「眼球の動きがおかしい」程度なら断酒して、ビタミンB1を3~5日ほど投与すれば多くは改善する。しかし、それ以上の症状だと治療が長引くことがある。疲れはビタミン不足が原因のケースがあることも知っておこう。