薬に頼らないこころの健康法Q&A

第1志望の高校に落ちてしまった

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授
井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(C)日刊ゲンダイ


 地元の中学ではトップクラスだった私は、進学校の県立A女子高に行くつもりでした。ところが、直前にインフルエンザにかかってしまい、入試は受けられませんでした。結局、滑り止めの私立B高校に行くことになりました。学校や塾で、私と同じレベルだった友達たちは、順当にA高に受かりました。私は本当は行きたくなんかないのに、ひとりB高に行かなくてはなりません。私の人生は狂い始めたようです。


 受験とは一発勝負。思いもよらぬことが起きます。これが人生です。ただし、もう高校入学は目前です。これからすべきことを考えましょう。

 まず、A高とB高との差がどの程度かわかりませんが、一般にどこの進学校も予備校の一流講師ほど教え方がうまいわけではありません。したがって、もしB高の授業に不安があるのなら、どこかの予備校に行くのもいいでしょう。

 ただ、高校1年の段階では、受験技術よりも基礎学力をつけることを目指すべきです。数学なら先へ先へと進んで、高校数学の全体像を早めに把握することにしましょう。英語なら何よりも大量の英文を読み込んで、日本語に移さなくても文意が理解できるようにするといいでしょう。文法の細かいところなどは、あとから何とかなります。

 しかし、1年の段階では、学力をつけること以上に重大な課題があります。それは、「自分の未来を考える」ことです。おそらく2年生ごろに理系・文系の振り分けがあるでしょう。ここから先は、文系から理系へ、理系から文系への転向は難しくなります。そして、理系なら理系の学部を、文系なら文系の学部を選ぶことになります。その先に大学があり、さらにその先に就職があります。

 ということは、2年生の理系・文系の振り分けは本当の意味での人生の岐路となります。職業の選択がかなりの程度決まってしまうのです。

■世の中にどんな職業があるかを調査

 文理の振り分けが迫る前に、まずは、世の中にどんな職業があるのかを調べてみましょう。そもそも自分の適性に合わない進路をとってしまえば、悲惨な運命となります。自分が何に向いているのか、どんな道に進めば充実した人生を送れそうか、そういったことを考えながら、世の中にどんな職業があるのかをサーベイしてみましょう。

 かくいう私も第1志望に落ちて、希望していなかった高校に進みました。挫折感はありました。でも、高校に入るとすぐに「それどころではない」と気づきました。高校受験のときは、偏差値を見て合格できそうなところを選べばそれでいい。でも、大学はそうはいきません。大学、とくに学部の選択は、人生を左右します。偏差値で志望校を機械的に決めるのは危険です。その先に自分に合う職業が待っている保証はありません。

 それで1年の1学期の期末試験が終わったころ、人けのない図書室にひとり残って、新書を端から読んでいきました。内容を理解するためではなく、職業探しのためでした。そうするうちに精神科医という職業を見つけて、医学に進むことを考えるようになりました。

 あなたの場合も高校に入ったら、まず、自分の人生を探すことを始めましょう。そのための場は、A高であろうが、B高であろうが大きな違いはありません。むしろ、そこから先の選択こそが、未来をつくっていくのです。

井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。